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13-3:人形と人間

13-3:人形と人間


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 和気藹々(?)とした散歩を終えると、総知が作ってくれた料理がテーブルの上に並べられていた。

 小夜子、総知、鳴恵と共に食卓に座りリリシアは、ただの栄養摂取ではない食事を楽しむことが出来た。

 その後、鳴恵は部活だと言って、弓道道具を片手に出かけていき、リリシアは小夜子と共に近くのデパートへ買い物へ行くことにした。

 見た目は少女だが、リリシアは教会にてちゃんと働き、給料もかなり得ている。

 とは言っても、小夜子がコーディネイトしてくれた服を片っ端から買っていく辺りは少々度が過ぎているかもしれないが。

 買い物が終わると、家にて夜ご飯のお手伝いだ。

 総知も含めた三人で、イタリア料理を作っていく。

 これでも小夜子の五倍近い年月を生きているリリシアは、料理の知識だけなら三人の中では誰よりも豊富だ。

 リリシアの知識、総知の腕、そして小夜子の愛情が詰まった料理が出来上がっていく。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「うわ、美味しい」

 部活から帰ってきた鳴恵を迎えて再び四人での食事。

 テーブルの上に並ぶ、本格イタリア料理に度肝を抜かされた鳴恵だったが、部活後の空腹感そして料理から立ち上る甘美な香りに、すぐさま料理に手をつけた。

「それはそうじゃろう。なんと言っても、妾の200年の知識が詰まっているのだからな。鳴恵、心して食うが良い」

「でもさ、これ作ったのパパだろう」

「それがどうした。妾の知識が無ければ、これほどの美味作れぬぞ」

 ああだ、こうだとリリシアと鳴恵の会話はまるで仲の良い姉妹喧嘩のごとく続いていく。

「あらあら、本当、リリシアちゃんと鳴恵ちゃんは仲が良いわね。これなら、二人同じ部屋で寝ても大丈夫そうね」

 そんな二人を眺めつつの小夜子の言葉。

 さらりと宣告された未来にリリシアは首を大きく横に振って反論した。

「いやだ。妾は、小夜子と共に寝たい。小夜子の優しさに包まれるのをずっと楽しみにしていた。妾は小夜子と一緒が良い? 小夜子も妾の気持ち分かっているはず。それなのにどうしてそんな意地悪をする?」

 本当の少女のように目元に涙を溜めながら、リリシアは懇願する。

 しかし、小夜子は折れない。


「だって、私はいつか死ぬから」


 人間として当たり前のこと。

 生きているときにはつい忘れてしまいそうになるけど、人間はいつの日か、遠いか近いかは分からないが、死ぬ。

「そして、リリシアちゃんは死なないから」

 人間には寿命という枷があるが、人形にはそれはない。

 それはいつの日か必ず来る逃れよう無い運命。

 そんなことリリシアにだって、分かっている。

 今までだって、そうして何人もの人たちの最後を見てきた。

 だから、そんなこともう考えたくなかったのに。

 いつの日か、大好きな小夜子とも別れの日が来る。

 それを小夜子自身から言われ、リリシアの目に涙が溜まっていく。

「だから、小夜子は妾を遠ざけるのか。情が深くなり、妾が悲しまないように、妾と距離を置くというのか。ふざけるな!! 

 そんな別れの寂しさ、痛さ、苦しさは誰よりも妾が一番良く知っている。そんなこと人間ごときに心配などされたくない!!」

 バンとテーブルを叩き付ける音が木霊し、静寂のみが残される。

 青く輝く獰猛な瞳はそれだけで、十分に凶器へとなりうる。

 しかし、そんな青の狂気に睨まれても小夜子は動じていなかった。

「別に、私はそこまで考えてはいないわ。普通の人間である私が、200年も変わらず生きているリリシアちゃんの苦しみを理解できるわけがない。

 ただ、人間と人形の違いは死ぬことだけじゃない。

 人間は死ぬ変わりに子孫を残すことで、未来を作っていく。

 だから、私が死んだ後には鳴恵ちゃんが残る。その時に私の娘とリリシアちゃんが私の死を受け入れ、乗り越えられるほどの絆を持ってくれていたら、嬉しいなって思ってるの。

 ただ、それだけよ。後には、必ず、リリシアちゃんが残るからね」

 そして、小夜子は朗らかにリリシアに笑いかけた。

「まったく、小夜子は卑怯だ。妾より先に死ぬと決めつけているのだから」

 青人形と呼ばれている少女から涙がこぼれ落ちる。

 

 寂しさからでも、

 怒りからでもなく、

 純粋な嬉しさから来る喜びの涙。

 

 本当に小夜子に出会えて良かったと思う。

 神様なんてリリシアは信じていないが、この喜びは運命という神に感謝しても良いと思ってしまう。

「先に死ぬのなら、先に死ぬなりにやっておかねばならない事がありますからね」

 そんなことをさらりと言える小夜子は、きっと長生きすることだろう。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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