12-9:決然
12-9:決然
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
終わった。
すべてを失った久我流誠は地面に倒れ込み、美しい青空を眺めていた。
人がこれだけ、絶望的な気分になっているというのに、目の前には蒼天の青空がまるで人々を祝福するかのようにあった。
「ごめん」
呟いた言葉はもう彼女には届かない。
リリシアにプロミス・オブ・スマイルを奪われた流誠はもう魔法を使えず、ティーカの気配を感知することも出来ない。
だが、戦い最中にティーカの気配がまるで神隠しにでもあったかのように忽然と消えたのは覚えている。
きっと、彼女はもう、この世界にいない。
流誠はまたしても大切な人を守り抜くことが出来なかった。
唇を噛みしめ、拳を握りしめ、瞳を大きく見開く。
こぼれ落ちそうになる涙を流すと、もう二度と起きあがれなくなりそうで、流誠は目の前の青を睨み続けた。
いつまでそうしていたのか、分からないが、世界に動きがあった。
すぐ近くで人の気配を感じる。
流誠が視線を空から外すと、そこにはもう一人の敗者がいた。
「月島さん………」
リリシアとの一騎打ちに負けた玉露が津樹丸を握りしめ、起き上がっていた。
剣士の持つMSデバイサーはまだ緑の光で輝いている。
それはきっと、まだ玉露が戦士である証だろう。
「僕は独りで大丈夫だから………」
いつもは剣士の強さを象徴するこの言葉も、今だけは弱々しい。
しかし、玉露は立ち止まらず、逃げもしない。
それが、闇法師と戦う運命の元に生まれた月島の生き方だから。
「久々に負けちゃったね、津樹丸」
『前進』
全身傷だらけで、津樹丸を杖代わりに前に進もうとも、その姿がどんなに滑稽で醜くても、敗者の刻印を刻み込まれようとも、この相棒がいるかぎり玉露は何度だって起きあがれる。
「うん。でも、あの闇法師、殺せたはずなのに僕を見逃した。だから、次こそは必ず、僕があいつを狩るよ」
流誠にとって、玉露は大きな存在だった。
年は玉露の方が、間違えなく下だろうにあの剣士は流誠よりも強い。
力だけでなく、心も強い。
玉露の姿が小さく見えなくなった頃、流誠も起きあがった。
もう涙で視界が滲んでもいない。
心にあるのは、大切な人を失った事への喪失感と、ティーカと交わした約束。
「ボクは君を守り抜くナイトだから………」
拳にカードはない、
肩にティーカはいない、
でも、笑顔の約束だけは残っている。
「例え、負けても守り抜いてみせる」
しっかりと前を見据え、敗北という苦汁を飲み込んで、何度でも守ってやる。
もう、あの銀髪の彼女の時と同じ過ちだけは繰り返さない。
紫騎士ではなく、久我流誠は決然とした表情で、また一歩を歩き出した。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そう、物語はまだまだ終わらない。
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