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12-8:決着

12-8:決着


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 リリシアに連れられ、向かった先に赤の彼はいた。

 が、その手には既に紫の妖精はいない。

「やっぱり、ティーカちゃんはもうこの次元にいないんだな」

 それは決戦の合図にもなったあの瞬間に分かっていた事だが、改めて思いしらされると、心に大きな孔が空いてしまう。

 もっとも、彼女を裏切った幸多にはそんな資格はないのだろうが。

「ああ、一刻も早く次元を安定させたかったからな。あやつは先に小職の世界に送りつけた。

 リリシア殿、久我流誠の持っていたMSデバイサーは?」

 リリシアは相変わらず無言で、ポケットから紫のMSデバイサーを取り出し秋生に手渡す。

「助かった。お主の方はどうだ、あの剣士、なかなかの強者だったようだが」

 プロミス・オブ・スマイルを受け取りながら、秋生は仕事の相棒を気にかけるが、リリシアは大丈夫だと言わんばかりに秋生を睨み付けると、後ろに立つ幸多を指さした。

 正確に言うのなら、その彼が首から提げている白のMSデバイサーをだ。

「確かに、さっきは幸多殿との突然の再会にそこまで頭が回らなかったが、教会関係者じゃない幸多殿が、そんな高性能のMSデバイサーを持っているのは不自然だな」

「あ~そうか。ライナさんはティーカちゃんを元の世界に連れ戻すために、こっちに来ていたんですよね。なら、ティーカちゃんの私物も持って帰らないと意味ないんですね」

 かつて次元監視者である来名秋生に助けられた、藤永幸多は次元監視者とはどんな仕事であるが少なからず理解している。

 彼は迷うことなく、首から提げているMSデバイサーを取り外すと、そのまま秋生に投げ渡した。

「ありがとう。幸多殿。でも、本当に良かったのか、これで?」

「どういう事ですか、ライナさん?」

「お主は、ティーカ・フィルポーズを裏切ってまで、小職を助けてくれた。

 正直、あそこで幸多殿が来なかったら、小職は負けていたかもしれない。

 逆にティーカ・フィルポーズや久我流誠側に回っていたら、小職は確実に負けていた事だろう。

 お主の決断がこの戦いの勝敗を分けたといっても過言ではない。

 お主は友を裏切った。

 その決断で本当に良かったのか?」

「はい。悔いはありません。

 幸多、ライナさんと約束しましたよね、助けて頂いた恩は一生忘れないと。

 男の約束ですから、義理と人情、天秤に乗せたら義理の方が重いに決まってるじゃないですか」

「そうか。ありがとう、幸多殿。今回は、お主に命を救われた。この恩は必ず、覚えておく。だから、幸多殿、これでおあいこだ」

 そう言って、秋生はコインを真上に弾いた。

 それは呪文。

 次元監視者専用の次元の扉が開かれた。

「ではな、リリシア殿。小職の仕事は少ないに越したことはないが、またこの次元に来たときは相棒をお願いするよ」

 リリシアからは相変わらず、返事が返ってこない。

 しかし、人形のような彼女は小さく手をふって、秋生に別れの挨拶をしている。

 秋生もリリシアに手を挙げ、答えて、もう一人の友を見た。

 異世界で売春婦として生計を立てていた彼は、しかし、男らしくそこに立っていた。

「幸多殿も元気で」

「ライナさん。もう行かれるのですね」

「まあ、小職は次元監視者だからな。

 ティーカ・フィルポーズを送り返した今、次元の扉の修復をせねばならず、仕事はいっぱいある故な」

「ライナさん、お元気で。またいつか運命が巡り会えば何処かで会えますよね」

「ああ、その運命の日まで達者でな」

「はい」

 別れの挨拶を終え、秋生は次元の扉の中へ消えていった。

 残ったのは、仕事を終えた青人形と、約束を終えた白歌姫の二人。

 二人は次元監視者の消えた空間をしばらく眺めていたが、しばらくするとどちらともなく別々の歩き始めた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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