12-6:決戦
12-6:決戦
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伸ばした手は、しかし、白い壁に阻まれ届かない。
「ティーカ!!」
流誠の叫び声が轟くが、白のフィールドに包まれた彼に出来ることは何もない。
朱天使の姿が小さくなっていき、ついには見えなくなった。
流誠の伸ばされた手はもう何もつかめない。
いや、まだ掴んでいるものはある。
それはティーカが彼に与えたMSデバイサーだ。
流誠は紫のカードを血が出そうなほどきつく握りしめると、ゆっくりとだが確実にカードの標的として、流誠を裏切り秋生に加勢した幸多に狙いをつけた。
普段は優しいけど、何処か困ったような瞳が、今は鬼の形相で幸多を睨み付ける。
「藤永………」
流誠の小さく静かな呟きが彼の心情を表せていた。
もう、流誠は幸多を、教え子だとも、共に戦った仲間だとも思わないだろう。流誠にとって、幸多はもはやティーカを守るために戦う敵でしかない。
「先生……ティーカちゃん」
幸多も小さく呟く。
それは過去への呪縛を切り捨てるための儀式。
小歌として楽しかった日々を今この瞬間だけは忘れるための呪文。
幸多の選んだ道を最後まで走り抜くための覚悟。
この戦いの先に、小歌に戻っても紫の妖精とその騎士が側にいないとしても、幸多は約束を果たさす。
流誠を閉じこめていたでいた白のフィールドが不意に消えた。
「いまさら。ボクは藤永を許しはしないよ」
「幸多も許させようとは思ってない。だから、男同士、後腐れないように、正々堂々、本気のガチンコ勝負をしたいだけだ」
「そんな事、ティーカを守るボクには関係のないこと」
「確かに、これは幸多のわがまま。でも、幸多達は結局戦って、どちらかが負けるしか、分かり合う道はない。なら、幸多は幸多のやりたいようにやらせてもらうよ」
会話はそこまでだった。
紫のカードに呪文が刻まれ、雪色の笛に唇が添えられる。
まるで、剣豪が対峙しているかのような静かな静寂が一体を包み込む。
紫対白。
緑対青。
二つの決闘は今、静かに戦いを告げる鐘の音を待っている。
極限の緊張状態。
人の五感はとぎすまされて、一秒が一日にも感じられ、一時間が一秒にも感じられる世界に四人の魔法使いはいた。
紫色の気配が、この世界から消えた。
その瞬間が、決戦の始まりだった。
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