12-3:決死
12-3:決死
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緑と青。
二人の戦人の間に言葉はない。
互いに敵同士、伝え会う想いなど何もない。
緑の閃光を纏った津樹丸が横薙ぎで迫り来る。
リリシアは手にした杖で受け答えるが、デバイサーで言えば旧式であるはずの津樹丸の方が魔力が勝っている。
僅かずつだが、杖に亀裂が走っている。
後、数回、津樹丸の攻撃を受け止められるかどうか?
リリシアは考える。
今、この場で自分がしなければならない事を。
この剣士は、リリシアを闇法師と呼んでいた。
確か、闇法師とはこの国の言葉で、クレデターを意味すると師匠が言っていたから、あながち間違った意見ではない。
25点と言った所か、正しく訂正してやる義理もないし、そんな余裕もない。
リリシアは頭の中で、呪文を唱える。
呪文は杖に反応して、魔法として答えてくる。
玉露は、しかし、杖に魔力が溜まっているのを承知で引くことはない。
厄介な敵だと、リリシアは心の中で毒づき、杖から手を離した。
そして、一気に後退する。
今、杖に仕込んだのは、自爆用の呪文である。
持ち手のいなくなった杖を玉露は払いのけるが、その瞬間魔法が発動した。
玉露を中心とした一面が青の閃光で包まれる。
そこに生まれたのは、僅かな時間。
リリシアは秋生の状況を確認する。
彼はティーカと間に立ちふさがる別の現地人と対峙している。
あの現地人が、秋生の言っていたMSデバイサー確保対象だろう。
本来なら、リリシアの相手はあの捕獲対象だったはず。
それなのに、いらぬ邪魔がここに存在していた。
風が吹き、爆風によって舞っていた粉塵が晴れていき、緑の閃光に包まれた玉露が立っていた。
リリシアの予想通り、剣士は無傷のようだ。
あれだけの旧式を扱っているというのに、教会に属する並の戦闘要員の数倍は強い。
これで、教会で正規のMSデバイサーを持った日には、この剣士は歴史に名を残す偉大な魔術師になるかもしれない。
だが、自分はもしかしたら、今からこの将来有望な芽を潰してしまうかもしれないとリリシアの心が痛んだ。
杖はあくまで彼女の属する教会が義務的に彼女に与えた武器に過ぎない。
失ったところでリリシアの戦況が悪化する訳でもない。
むしろ、使い慣れていない分だけ彼女は不利な状況に立たされていた。
リリシア・イオ・リオン。
彼女は作られし、魔法兵器。
彼女にMSデバイサーは本来必要ない。
なぜなら、彼女自身がMSデバイサーであるからだ。
リリシアの特徴的な青い瞳が輝く。
全てが青に染まった視界でリリシアは玉露を捉える。
玉露もリリシアが本気を出したことを本能的に感じとったのだろう。
迂闊に攻め込むような事はせず、津樹丸を構えながら、ゆっくりと間合いを縮めてくる。
緑と青。
二人の戦人に言葉はない。
それほどまでに、今、この戦場は張りつめた空気の中にあった。
緑の剣と青の瞳。
その両方が敵を捉え、また捉えられていた。
勝負は次の一撃で決まる。
玉露とリリシア。
必殺の攻撃を外した方が敗者となる。
空気すら固まってしまったのではないかと疑いたくなる緊張の中、二人の魔法使いは、ただひたすらに時を待ち続けた。
決死の一撃を放つ、その一瞬を。
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