2-1:彼の仕事は?
2-1:彼の仕事は?
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またしても朝がやってきた。
流誠はカーテンを開け、差し込む朝日を全身に浴びる。
「う~~ん」
流誠の枕元で小さな妖精、ティーカが朝日から逃れるかのように寝返りをうった。
平和としか呼べない朝。
その風景があまりにも幸せ過ぎて、流誠はもう二度と会うことのない銀髪の彼女の事を思い出した。
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「ちょっと、流誠何処か行くの?」
朝食代わりの生クリームホイップたっぷりクッキーにかじりつきながら、ティーカが尋ねてきた。
この世界のことをまだ殆ど知らない彼女のでも、今、流誠が着ている服がスーツと呼ばれる正装であることぐらいは分かるみたいだ。
「そう。今日は仕事の日だからね。あ、そうだ。夜はそのまま先生達と飲み会だから、ティーカは先寝てて良いよ」
「あたしも行く」
「駄目だよ。今日は遊びじゃなくて、仕事なんだから。ボクがずっとティーカの側にいることは出来ない」
「別にあたしのナイトだからって、あんたがずっと私の側にいる必要はないわよ。
これでも、常識ぐらいは持ってるから、あんたの邪魔にならない程度にあんたの仕事で楽しませて貰うわよ」
そう言うと、ティーカは食べかけのクッキーを一気に食べ尽くした。
その姿はまるでヒマワリの種を食べるハムスターのように見えたなんて言ったら、彼女は間違えなく怒るだろうから流誠はそっと胸の奥にしまい込んだ。
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まだ出会って間もないが、ティーカが一度決めたことはけして曲げない性格であることぐらいは流誠にも分かっていた。
流誠はそれ以上何も言わず、ステルスの魔法をかけたティーカを肩に乗せ、職場へと向かった。
途中、満員電車にのった際、あまりの人の多さと人体が放出する熱気にティーカが暴走しそうになるのを何とか宥め―傍目には独り言を呟く危ない人だと言う目で見られてしまったが―なんとか無事に、流誠は彼の職場にたどり着くことが出来た。
「へえ? ここが流誠の職場なの?」
ティーカの知識では仕事とは狭いオフィスに詰め込まれ、画面を睨んだり、電話をしたり、上司に怒られたりするものだと認識していた。
そのため、目のために立つ西洋風な建物が流誠の職場だと聞かされたとき、思わず聞き返してしまったのだ。
「そうだよ。私立聖霞ヶ丘大学。ボクはここの非常勤講師なんだよね」
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