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M-8:さあ、定香、変身だよ

M-8:さあ、定香、変身だよ


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 イリルと名乗った魔法の杖の前は私は、恥じらうことなく涙を流し続けていた。

「あ、え、その、定香さん、まずは落ち着きましょう。ほら、え~とまずは深呼吸でもしましょう」

 イリルはそう言ってあたしを励ましてくれるけど、それじゃ駄目なの。

 あたしにはお兄ちゃんじゃないと駄目なの。

 お兄ちゃんの声が聞きたい。

 お兄ちゃんに抱きしめてもらいたい。

 お兄ちゃんが良いの。

「あれ、定香、変身しないの?」

 そんな風にお兄ちゃんを想っていたあたしに聞こえてきたのは、お兄ちゃんの意外な台詞だった。

「へ? お兄ちゃん何言ってるの?」

「だって、その杖があるって事は、定香、パラレル・ティーカに変身するつもりなんだろう」

 あれ?

 もしかしてあたしがパラレル・ティーカだって、既にばれてるの?

 確かにパラレル・ティーカは衣装変わるけど、顔はいつものあたしのままだったんだよね。

 折角、ごまかしたと思っていたのに………。

 でも、ちょっと嬉しいかも。

 だって、パラレル・ティーカの正体見抜いてくれてってことは、お兄ちゃんが毎日あたしを見てくれているって事だよね。

 でも、ごめんね、お兄ちゃん。

 あたしはもう、パラレル・ティーカにはならないよ。

 なれないの。

「違うよ。そんなあたし、もう、あんなお兄ちゃんを傷つけるかもしれない力なんていらないよ。もう、あんな危険な力絶対に使わないよ」

「そうじゃないよ。定香、あれは定香の弾けるほどの想いがあったからだよね。確かに危険かもしれない。

 でも、その力を必要としている人がいるんでしょう。

 なら、恐れたら駄目だよ。あれだけの弾ける想いを持ってる定香を、ボクは正直、凄いと思うよ」

「でも、でも、でも、あたしの力は………」


「それにさ、正直に言うと、ちょっと恥ずかしいけど、パラレル・ティーカになった定香…なんというか、可愛かったよ」


 その一言で、あたしの悩みや不安は全て吹っ飛び、頭の血は一瞬で沸騰、顔の朱は一瞬で浸透、胸のときめきは一瞬でゲージを振り切った。

 お兄ちゃんが、お兄ちゃんが、パラレル・ティーカになったあたしを可愛いと言ってくれた。


 もう、それだけで、あたしが魔法天使になる理由なんて充分だ。


「さあ、イリル、変身よ」

「っちょ、それ自分の台詞。つか、さっきまであんだけ嫌がっていたのに、何ですか、その身の変わり様は?」

「さっきも言ったでしょう。乙女は恋に生まれ、恋に育ち、恋に死ぬ。そしてね、乙女は恋に戦うのよ!!」

 あたしは魔法の杖・イリルを握りしめ、呪文を唱える。

 さあ、お兄ちゃんよ~く見ていてね、定香はお兄ちゃんのために、これかも魔法天使続けていくんだから。


「届け! あたしの想い オーバー キュア ハート」


 あたしがイリルをくるくると回すと、イリルの先端から紫の帯が出てきて、あたしを優しく包み込んでくれる。

 紫の帯は、あたしを生まれ変わらせてくれる繭となり、あたしの全身を包み込んだ。

 さあ、行くよ~~。


「スパーク!!」


 紫の繭が弾け飛んで、その中から出てきたあたしはもう久我定香じゃない。

 紫と白との入り交じったコスチュームに身を包んだあたしの名前は、

 そう、


「弾ける想いを届けるため 魔法天使パラレル・ティーカ ただいま参上、よ」


 ねえ、お兄ちゃん、あたし、可愛い?

 明日は、この格好で起こしてあげるから、期待して待っててね。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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