M-7:次元監視者 イリル
M-7:次元監視者 イリル
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そう言えば、次元監視者って何だろう?
この杖―イリル―は最後にそんなこと言っていたけど、それってどんな意味なのかな?
なんて、ぼんやりと考えたあたしは、階段が軋む音で一気にのことを頭から追い出した。
きゃ、お兄ちゃんが起きちゃったよ。
イリルどうしよう、ゴミ箱に捨てる…じゃなくて、隠す?
………駄目だ長い。
それじゃクローゼットの中は?
………あ、でもその前にこの甲羅縛りをはずさなちゃ。
そうこうしている内に、パジャマ姿のお兄ちゃんがリビングに入ってきた。
「あ~、おはよう定香」
「お、おはよう。お兄ちゃん」
あたしは、椅子に甲羅縛りで縛り付けた杖を必死に外しているポーズのまま、お兄ちゃんに朝の挨拶をした。
いやあああああ。
お兄ちゃんにまた変な妹だと思われちゃうよ。
「定香は本当、朝から元気だな。今度は一体、何を始めたんだ?」
「え~と、ね。そう、これあたしが考えたダイエット道具なの。ホラ、たまにあるでしょう。乗馬の姿勢がダイエットに良いって。アレを参考に作ってみたの。あははは」
きゃあああ、あたしなにテンパってるの。
もっと可愛い嘘とかあるでしょう。
「なるほどね」
僅かに顔を引きつらせながら、お兄ちゃんは着替えのため脱衣所に向かった。
いやああああ、恥ずかしい。
あたし、もう死にたいよ。
マリゾナ海溝にでも誰かあたしを沈めて………って、あれはアリアナ海溝だったけ?
それも、これも全部、このイリルが悪いんだ。
あたしはこの乙女の怒りを拳に込め、拳で乙女の悲しさをに教えてあげたの。
「ウグエ」
そのせいで、イリルの意識がまた覚醒しちゃったけど。
「あれ、定香さん。どうしたんですか、そんな泣きそうな顔して?」
「なにのんきなこと言ってるの! それもこれもあんなのせいよ。
あたしまた、お兄ちゃんに頭可笑しい子だって思われちゃったよ。こんなんじゃ、あたしお兄ちゃんに嫌われちゃうよ」
駄目だ。
思考が嫌な嫌な方へ流れていくのを止められないよ。
「あ~と、自分には話がよく見えないのですが、とりあえず、定香さん変身して頂けますか? 今、この世界、わりとピンチなんですよ」
「そんなの知らない。知ってる? 女の子は、世界の平和よりも自分の恋の方が大切なの。
世界平和なんて、銀色の巨人や、緑のバイク野郎か、カラフルな五人組が守れば良いのよ。
あたしは、恋に生まれ、恋に育ち、恋に死ぬ、普通の少女なのよ」
「実兄に恋する時点で全然、普通じゃないかと…………」
「恋に、血も、法も、世界も関係ないのよ。
あたしがいて、お兄ちゃんがいるそれだけで恋が始まる理由は充分でしょう。恋は始まると、もう誰にも止められないの。
弾けそうなほどに膨らんだ想いを抱えて、一生懸命に恋するしかないの!」
気が付くとあたしは涙を流していた。
あたしだって、実の兄に恋するなんて本当はどんなにいけないことなのかぐらい分かってる。
でも、それでもあたしはお兄ちゃんを好きなった。
なってしまったんだ。
恋が今にも弾けそうでたまらないのよ。
「だって、あたしはお兄ちゃんが大好きなんだもの」
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