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M-6:その杖の名は

M-6:その杖の名は


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 でも、不幸なことに物語は続いているの。

「あの~、定香さん。定香さんって、こんな趣味がおありなのですか?」

 あたしの前には、縄で甲羅縛りした妖しい魔法の杖さんがやっぱりいる。

 何度見ても間違えない、この前、いきなりあたしの前に現れて、あたしを魔法天使にしたあの杖だ。

「あるわけないでしょう。でも、お兄ちゃんがもしそういう趣味だったらって思って、一応基本だけは覚えていただけなの。

 べ、別にあんたなんかのために覚えたんじゃないからね」

 あ、最後の方は最近覚えたツンデレ言葉。

 あまり使う機会がなかったからついでに練習してみちゃった。

「で、本当、どうしてあなたは、またあたしの前に来たの?

 あたし、あなたをあのグリーン・ソードっていう少年に、確かあげたはずなんだけど。だめだよ、勝手に逃げて来ちゃ」

「あ~~、自分にはちゃんと自我があります。自分が何時、あなたの所有物になったというのですか?」

「だって、ほら、魔法少女の杖が誰の物だって聞かれたらみんな、魔法少女の物って答えるでしょう。

 そーいうこと、あなたはあたしに『さあ、変身だよ』って言った時点で、あたしの所有物になるって宣言したも同然なんだよ」

「何ですか、その超俺様的理論は!……………………、それにもう少女って年じゃないでしょうが、このブラコン娘」

 あ~あ、最後の独り言は小声で聞こえないとか思っているでしょうね。

 でもね、あたしはお兄ちゃんの一言すら逃さないように聴覚も、もの凄く良いんだよ。

 ぜ~んぶ聞こえてるんだよ。

 あたしは、笑顔を浮かべながら魔法の杖を優しく撫でた。

「あれ、定香さん。どうかされました?

 自分を撫でる手つきにもの凄く殺気を感じているのですが、これって気のせいですよね、そ~ですよね!」

 魔法の杖さんは、なかなか野生の感が良いようで、なんか叫いているけど、あたしは気にしない。

 あ、でも、あんまり騒がしくしちゃうと、まだ部屋で寝てるお兄ちゃんが起きちゃうかも。

「ねえ、あたしって、そんなにおばさんに見えるかな?

 知ってる、魔法少女ってかなりポイント高いんだよ。男の約ニ割は隠れ魔法少女ファンなのよ。それにね、あたしはブラコンじゃないよ。

 これは愛、ブララブなんだよ」

 魔法の杖さんが一気に冷たくなったのを、あたしは撫で続ける掌で感じた。

 それにどうやら、冷や汗もかいているみたい。

「あ、あ、い、や、う、ああ、その、定香さん、聞こえてました?」

 あたしは首を縦に振った。

「さあ、変身しようか。あたしの敵はもちろん、あなただけどね」

「いや、定香さんすみません。前言撤回させて頂きます。つっか、させて、自分、まだ死にたくない!

 こんな惨めな死に方だけは絶対に嫌だ!」

「そんな、死ぬなんて怖いこと。定香はただ、あなたにあたしのお兄ちゃんへの愛をもう二度と勘違いしないように教えてあげる、だ・け・だ・よ」

 椅子に甲羅締めになっている杖さんが本格的に震え始めた。

 あらあら、恐がりな魔法の杖だ事で。

「ねえ、そう言えば、まだあなたの名前聞いていなかった、教えてくれる?」

「じ、自分の名前は、次元監視者 イリルです」

「それが遺言で良いよね? まあ、決定事項だけどね」

 その瞬間、イリルは白目をむいて(何処にあるのか分からないけど)気絶しちゃった。

 あぁあ、折角悪女プレイの練習になってたのに…………

 ちょっともったいなかったな。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



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