11-5:プロミス・オブ・スマイル
11-5:プロミス・オブ・スマイル
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ティーカの居なくなった部屋で流誠は一人、紫のカードを握りしめていた。
『お主は知らないだろう、あの女が何処から来たのか、あの女が何故ここにいるのか、あの女とクレデターとの因果を、何も知らずに戦っているのだろう』
ティーカが与えてくれた紫騎士の証。
ティーカを守る紫騎士の武器。
ティーカと紫騎士との絆。
『間抜けな騎士気取りのお主に一言だけ忠告しておこう。あの女、ティーカ・フィルポーズがいるから、今この地でクレデターが過剰発生しているんだよ』
だが、MSデバイサーを握りしめても、流誠は心を決めかねていた。
ティーカを守りたいという気持に嘘はない。
しかし、ティーカの真実を知らない自分に果たしてその資格があるのか分からないのだ。
「全く、どうしてボクはこうも、弱く、情けないのかな?」
自嘲的な笑みを浮べ、思い出すのはティーカの笑顔と白銀の髪を持つ彼女。
守ると誓いながらも、守れなかった存在。
別れ際に見せた、月に帰るかぐや姫のような最後の笑顔がどうしても忘れられない。
「彼女も守れず、ティーカも守れていない。こんなボクにナイトの資格なんてないよね」 そう言って、流誠は紫のカードをそっとテーブルの上に置いた。
でも、置きたくはなかった。
守りたかった。
皆を守ると言うほど青臭い事も言えず、かといってティーカのために誰かを犠牲にするなんて黒いことも言えない、中途半端な紫の気持ちのままでは戦えない。
『Wake Up Purple knight』
カードに呪文が刻まれる。
しかし、流誠は魔法を起動したつもりはなかった。
しかもカードの起動はそれだけでは止まらず、次の呪文を刻んでいく。
まるで、カード自身が意思のある生き物であるかのように、呪文を紡いでいく。
『I am Purple knight』
それはティーカと共に、彼女を守れる強さが欲しくて五日間の山ごもりの帰り道で、流誠が刻んだ何の効果もない呪文だった。
だけど、それは違うのかもしれない。
この呪文にはもしかしたら、思い出という魔法が刻まれているのかもしれない。
『Battle for her smail』
瞬間、ティーカの笑顔が流誠の中で、弾けた。
頬をふくらしながらも笑うティーカ、ちょっと頬を染めながら笑うティーカ、楽しそうに心からの笑みを浮べるティーカ。
流誠の肩で、太股で、目の前で、何処ででも彼女は笑っていた。
大好きな生クリームを笑顔で食べるティーカを思い出した流誠は、自分が何故戦うのかを思い出した。
「ありがとう、おかげで大切なこと思い出したよ。それじゃ、行こうか、プロミス・オブ・スマイル」
一度置いた紫のカード―プロミス・オブ・スマイル―を再び手に取り、紫騎士は立ち上がった。
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