11-4:再会へ向けて
11-4:再会へ向けて
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『滅却』
意思の力を込められた緑の刀身が黒の異形を斬り殺した。
緑剣士は今宵もたった一刀の相棒を頼りに、闇法師と戦っている。
未開の山奥に流れる清流のごとき美しき剣捌きの元、闇法師は死の闇へと消えていった。
津樹丸に残った闇法師の残滓を一振りで振り落として玉露は津樹丸を鞘に戻し、普段は居ることのない戦いの観客に視線を向けた。
「それで、藤永はまた僕を邪魔しに来たの?」
闇夜に紛れるようにそこには、黒一色のゴスロリ服を着た小歌が立っていた。
「違うよ。でも、玉露君に一つ聞きたいことがあってきたの」
「僕に? 小歌は瀬戸乃花を殺した僕を殺したい程憎んでいると思っていたんだけど?」
「それはね、その通りだよ。でも、これは、小歌じゃなくて幸多の事だからね」
玉露はこの小歌と言う人間が好きではなかった。
さきの瀬戸乃花の一件を通じて、この小歌という人間の考え方が玉露には全く理解できないし、そもそも男のくせにこんな女装をしているのが許せない。
だが、それでも、ここまで真摯な瞳で睨まれると、答えをはぐらす自分がもの凄く子供に思えてしまいそうだ。
「分かったよ。本当に、一つだけなら、答えてあげるよ」
「ありがとう、玉露君。じゃ、聞くけど、玉露君はずっと闇法師と戦って居るんだよね。その間に、それもごく最近、とてもこの世界の人間とは思えない程の赤髪を持つ人と出会わなかった?」
小歌の質問の意図は玉露には分からないが、答えはすぐに出てきた。
何故なら、緑剣士はいつも孤独であるから。
「いいや、残念だけど、僕はそんな人間見たことないね。僕は津樹丸さえ居てくれれば、独りで十分だからね」
「そっか、ありがとう。それとできれば、もしこれからその赤髪の彼に出会ったら小歌に教えてくれると嬉しいな」
「それはないね。僕は小歌のこと嫌いだから」
「そうだね、小歌も玉露君のこと嫌いだよ」
そうとだけ言い残して、小歌は玉露に背を向け、赤髪の次元監視者を探すべく歩き出した。
そんな小歌の後ろ姿を見ていた玉露は、しかしすぐに津樹丸を手に取り、次の戦場へ歩き出した。
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「ティーカ・フィルポーズは少なくとも、一人の現地住民と行動を共にしている。その上、厄介なことに教会非公認のMSデバイサーまで、その現地住民与えている状況だ。その現地住民がどれほどの魔力を持っているのかはしらないが、MSデバイサーはかなりの高性能品だった。小職の目的は、ティーカ・フィルポーズ及び彼女が持ち込んだMSデバイサーの確保だ」
夜、ホテルのレストランにて秋生とリリシアは食事を取っていた。
見た目だけでいえば20歳をすぎた青年と10歳に届くかどうかの少女が一緒に食事をしている光景は、よく見れば仲の良い兄妹にも見えなくもないが、どちらかというと訳ありの二人に見えてしまい、誰も二人の近くに寄ってこない。
「リリシア殿には、MSデバイサーの確保を頼みたいが、大丈夫か?」
リリシアは小さく首を縦に振ると何事もなかったかのようにコーンスープを口に運んだ。
「後の問題は、ティーカ・フィルポーズが他の現地住民にMSデバイサーを与えているかどうかだな。ややこしい事態にならなければいいのだがな」
秋生の呟きは別の意味で当たることになる。
彼はこの時まだ知らなかった、
この事件を通じて一つの再会が彼を待っていることを。
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秋生が明日から予定を色々としゃべっているが、リリシアは話半分しか聞いていなかった。
秋生と共に行動するのはこれが初めてではない。
大体の流れはもう理解しているのだ。
コーンスープを運ぶ手を止め、リリは窓の外を見た。
今回の事件が日本で起きていると聞いて、リリシアは珍しく自分から挙手してこの地へとやって来た。
リリシアの考えを読んだ、彼女の上司は笑いながら「終わったら、少しは向こうで休日取って良いわよ。彼女たちによろしくね」と約束してくれた。
こんなつまらない事件、早く終わらして、早く彼女に会いたい。
無表情な仮面の下で青人形は思っていた。
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