11-3:青人形
11-3:青人形
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フロントの人間から奇異の瞳で見られつつも、リリシアは用紙に必要事項を記入して、料金前払いで部屋の鍵を手に入れた。
長旅で多少なりとも疲れているリリシアはスーツケースを押し、早速部屋に行こうとする。
が、そんな彼女の視界の隅に気になる光景が入ってきた。
下卑た笑みを浮かべる中年男性と、まるで操り人形であるかのように彼の後ろを従順な姿で追う女子高校生だ。
捕食者と獲物と言うことだろう。
今すぐ、追うべきか。
リリシアは迷ったが、彼らがこれから行うであろう行為を考えると今すぐ助けに行ってやる義理などはない。
少しはお灸を据えた方が今度の彼の人生のためだろう。
そう決めるとリリシアはスーツケースを引き、部屋に向かうのだった。
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ホテルのベットの上で中年男性が待ちきれずに手をすり合わせていた。
既に上半身は裸であり、後はあの少女がシャワーを終えれば、事を始められる。
この時、男は気づいていなかった。
自らが狩られる側にいることを。
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「うああああ」
リリシアがドアを開けた瞬間、聞こえてきたのは中年男性の悲鳴だった。
そんな恐怖に引きつった顔の男の前には、背中からクレデターの一部が出ている女性が立っている。
「何、ガキ? 私今、食事中なの。私、ガキに体になんて興味ないから見逃してあげる。だから、さっさと何処かへ行きなさい。さもないと、あんたの顔の中身全て、くり抜くわよ」
しがれた声でクレデターに取り付かれた女性がリリシアを脅す。
しかし、見た目は子供でもリリシアは実に200年近く生きてきた人形だ。
その程度の脅しなど何の効果もない。
リリシアは無言のまま、哀れな男性を睨み付ける。
女を金で買うような奴、本当は助けたくないのだが、今は教会に身を寄せているため、個人的な理由でクレデターを見逃す訳にはいかない。
あれだけ、恐怖で顔を引きつらせているのだ。
あの男ももうこんな馬鹿げた真似などしないことだろう。
リリシアは男に向けていた視線を扉の外に向けた。
それだけで男にはリリシアの意図が伝わったらしい。
少女一人残すことなど何の躊躇いもなく、ただただの己の保身のみを考え、クレデターの前から逃げ出す。
「ちょっと、待ちなさいよ」
クレデターに憑かれた女が折角の獲物を逃がすまいと手を伸ばすが、そこにリリシアが立ちはだかる。
「はあ? ちょっとガキ、何のつもりよ。おいたが過ぎると、簡単には殺してあげないぞ」
クレデターに憑かれているとは言え、リリシアの正体を見抜けないようじゃ、三流も良いところだ。
リリシアはため息と共に、青い瞳でクレデターを一別した。
人間として最悪な男は助けなくちゃならないし、こんな雑魚の相手もしなくてはならないし、こんな事なら、秋生の変わりにあの異次元の生物を追っていけば良かったかもしれない。
「なんなの、その目。もう頭きた。このガキ、足から徐々に食べて………」
そう言う悪魔の顔が先に食べられた。
ホテルの一室に突如として現れた青の獅子が、女の頭を租借して、飲み込んだのだ。
あまりにも唐突な出来事にクレデターは為す術が無かった。
これこそが、青人形がもっとも得意とする技、召還魔法だ。
リリシアは自らが呼び出した青の獅子に対して頷くと、部屋を出て行った。
ホテルの一室に首無し死体など残っていれば、大騒動になることだろう。
だから、死体を丸ごと消さねばならないのだ。
終始無言だった青人形は戦いが終わってもやはり無言で、独りホテルの自室へ戻っていくのだった。
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