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自分の体程のスーツケースを押しながらリリシアは繁華街の中を歩いていた。
この先に教会が用意していくれたホテルがあるのだ。
「なあ、リリシア殿。そんなに小さな体なのに、なんでそんなに大きなスーツケースなんだ?」
隣に歩く秋生が話題作りとして訪ねるのだが、リリシアは秋生の顔を一瞥し、そんなこと関係ないでしょうと青い瞳で睨み付けてきた。
リリシアとは長いつき合いで彼女の性格をよく知っている秋生は小さく肩をすくめるとそれ以上は何も言わずに黙ってリリシアの隣を歩く。
それにしても、繁華街だというのもあるのだろうが、ここは人が多い。
今日は何か、祭でもやっているのだろうか?
人の流れに沿って歩くので精一杯だったりする。
「おっと、嬢ちゃん、悪いな」
それだけ人が多いのだ。
小柄なリリシアが誰かとぶつかるのはしょうがないのかもしれない。
ただでさえ、彼女はこの人混みの中、スーツケースを持って歩いてるのだから。
だから、リリシアと柄の悪そうな男性がぶつかっても秋生はあまり気にしなかったのだが、どうもそうにも行かない状況が生まれたようだ。
リリシアが立ち止まり、秋生の袖を引いてくる。
「うん、どうしたのだ、リリシア殿?」
リリシアは何も言わず、チャックの開いているスーツケースを指さしその後、先程リリシアにぶつかった男性を指さした。
まあ、それだけで何を言わんとしているかは分かったが、面倒くさい話だ。
「あ~と。つまり、世紀の大魔女、リリシア殿はチンピラに何かをすられたと」
リリシアは首を縦に振ると、ついで秋生を指さしそのままかなり遠くに行ったチンピラを指さした。
「で、小職に取り返してこいと?」
リリシアは再度首を縦に振る。
何故次元監視者の自分がこの次元のチンピラ相手に働かなくてはならないのかと秋生は自問したが、つまりは、
「それは、次元監視者の小職だからなのか?」
リリシアは三度首を縦に振った。
秋生はため息をつきながらもチンピラの気配を探る。
言われてみれば確かに、微弱ではあるがこの次元の者ではない波動を感じる。
「リリシア殿、お主、この状況、わざではないのだろうな」
秋生の愚痴にリリシアは惚けたように首を傾げる。
秋生は答えを求めて特徴的な赤髪をかきむしるとリリシアに、
「見つけてしまった以上は無視するわけにはいかぬな。リリシア殿、先にチェックインして待っていてくれ」
そう言うと、右手でコインを弾いた。
一瞬、秋生を中心に熱量が上がったが、もともと人混みで体感温度は上がっているため、誰も気づかす、人が一人こつ然と消えたことに気づいたのは、無口な青人形一人だけだった。
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「へへへえええ」
繁華街から外れた路地裏で卑屈な笑い声が木霊している。
そこにいるのは先程、リリシアとぶつかったあのチンピラだ。
チンピラはわき上がってくる笑い声を押さえようともせず、欲望のままに笑い続ける。
チンピラがリリシアより盗んだのは、青い宝石だった。
常人には分からないだろうが、これはただの宝石ではない。
生きとし生けるものが皆、多かれ少なかれ持つ魔力を圧縮して作り上げたMSデバイサーの一種だ。
生き物の魔力を糧とする彼ら、『ディネス』にはこれ以上の食事はない。
「ああ、リリシア殿。体内器官の予備なのだろうが、このようなもの。すぐにすられる場所に入れておかないでくれぬか」
チンピラの背後からため息混じりの愚痴が聞こえていた。
チンピラが誰だと背後を振り向くとそこにはとてもこの世界の人間とは思えない赤髪を持つ青年が立っていた。
「ディネス。魔力を主食として生活する、異世界グラバールの小動物か。
いつからこっちの世界にいたんだ?
魔力しか喰わないから正直、被害はないに等しいのだが、すまぬ、今はティーカ・フィルポースのせいで、次元が安定していないんだ。不安定材料は狩らせてもらうよ」
本能が危機を感じ、男の口から紅い液体が飛び出していた。
このアメーバ状の生物こそ、『ディネス』の本体だが、次元監視者にはあまりに無力である。
秋生が手にしたコインの縁に呪文が刻まれ、
『Flaem Fire』
コインから放たれた火球がいとも簡単に『ディネス』を焼き尽くすのだった。
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