11-1:動き出す、3と4と5
11-1:動き出す、3と4と5
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「あれ、先生、今日はティーカちゃんと一緒じゃないんだね」
学園の昼休み。
一人売店で買ったパンを頬張っていた流誠の元に、麗しのゴスロリ(♂)が近づいてきた。
「あ、藤永君」
返す返事に元気はない。
「あれれ、本当にどうしたの。そんなか弱い笑顔してると小歌、なんかゾクゾクしてくるよ」
自分で自分の肩を抱きしめながら小歌は震えている。
しかし、そんな小歌の挑発にも今の流誠は全く反応せず、ただ静かに太陽が輝く空を見ていた。
「ちょっと、どうしたの、先生。本気で、ヤバヤバな状態じゃない?」
同じティーカからMSデバイサーを受け取った仲間同士、恋愛感情(?)を抜きしても流誠の事を心配するのは当たり前だ。
「実はね、昨日から、ティーカが戻ってこないんだ」
そして、流誠は語り出す。
昨日のあの海での出来事を。そこであった次元監視者の事を。
彼に言われたティーカの真実を。
この時、流誠は自分のティーカの事で精一杯だった。
だから、彼は気づかなかった。
小歌の顔が知らぬ間に幸多の顔つきに戻っていることに。
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国際空港に赤髪の次元監視者―来名秋生―は居た。
彼はいつものようにコインを無意味に弾きながら待ち人を待っている。
次元監視者とは、その名の通り次元を監視する者のことをいう。
今回の事件は異次元世界、フォートラスから密入世界してきたティーカ・フィルポーズの確保、及び元の次元世界への強制帰世界だ。
目標がティーカのみなら秋生一人で事が足りるのだが、次元監視者はその特殊な事件及び次元を行き来するという繊細な状況のため様々な誓約が存在してる。
世界の存在を守るための次元監視者が世界の存在を危険にさらしては元も子もない。
そのため、次元監視者は現地世界の住民との接触を固く禁じられている。
もし、異世界の住民が現地住民と協力して物事を行っていた場合、異世界の住民は次元監視者の担当となるのだが、現地住民はその世界の方で対処してもらうしかないのだ。
全く持って面倒だが、世界を危険にさらさないためには仕方のないことだ。
この対応策として、各世界のごく一部にだけは、次元監視者の存在は公表され、また次元監視者からの協力を要請されている。
この世界の協力機関は『教会』と呼ばれている機関だ。
その存在自体がこの世界でも極秘裏な機関で、次元のゆらぎの副産物であるクレデターやこの世界に住む『悪魔』と呼ばれる異形の怪人を人知れず闇に葬り、闇の世界でこの世界を守っている。
クレデターを通じて、教会と四代前の次元監視者が出会ったのが1800年程前。
それ以降、この世界で次元監視者が活動する際は最低でも一人、教会からの応援者と共に活動するのだ。
「もっとも、小職は教会から良い目では見られていない故な。たまには、もう少し話甲斐のある者と一緒に仕事したいものだが」
そう呟いた瞬間、秋生の右膝に激痛が走った。
危うく喉を出そうにある叫び声を必死に押さえ、膝元を見ると、そこには10歳前後の少女が立っていた。
「あ、リリシア殿。もしかして、小職の呟き聞いていたのか?」
リリシアと呼ばれた少女は首を縦に振る。
印象的なブルーアイを持つ少女だ。
両目は魂が吸い込まれそうな青をしている。
この世界の住民ではない秋生と並んでも違和感が全くないこの少女こそ、教会からやって来た次元監視者の応援者である。
リリシアは痛がる秋生を無視して、一人先へ歩いていく。
体の大きさと同じぐらいのスーツケースを引くその姿はとても可愛らしいが、それを足してもまだ足りないほどの無表情がリリシアの顔にはあった。
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彼女、リリシア・イオ・リオンこそ、五人目の魔法使い―青人形―だ。
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