10-3:朱天使
10-3:朱天使
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背後に立たれた青年の方に振り返ることもできず、流誠はMSデバイサーの標準を何もない海岸に向けるしかなかった。
ちょっと、次元監視者。あんたのようはあたしでしょう。流誠は無関係よ」
「そうだったな。だが、このMSデバイサーは没収させてもらう。これほどの高性能となるとMSデバイサーも、次元の狭間を広げる要因となりえる故な」
「本当に、それだけね。流誠には絶対に手を出さない?」
「ああ。お主だって知っているだろう。
次元監視者は、その世界の生物にはけして手を出さない。
次元を守る者が自ら次元を不安定しては本末転倒だからな」
「そうね。その言葉を聞いて、安心したわ。それはつまり、どれだけあたしが暴れても流誠には迷惑かけないってことでしょう!」
ティーカはそう言うと一気に上昇する。
次元監視者から逃げるのは不可能だと分かっている。
が、彼女はまだあの世界に帰るわけにはいかなかった。
ティーカは、まだ”彼女”を止めていないのだ。
「無駄なことを。いや、小職としても逃げてもらった方が助かるかもな」
赤髪の次元監視者は自嘲気味に呟くと手にしていたコインを上に掲げた。
その先にいるのはティーカ。
コインの縁に呪文が刻まれる。
『Flame Fire』
コインから何発もの火球が打ち出されて逃げまどうティーカを追う。
「やめろ!!」
次元監視者の注意がティーカに向いた瞬間、流誠はすぐさま振り向き、紫騎士の証であるカードを赤髪の青年に向ける。
この青年の正体をまだ流誠は知らないが、ナイトとしてティーカが攻撃されているのを黙ってみている訳にはいかない。
カードが紫色に発光し、いつでも次元監視者と呼ばれた青年を撃てるようになる。
まさに喉元に拳銃を突きつけられたような状態の青年は、火球を放つのを止めた。
「やめろ。ティーカに手を出すな」
「同じ事をお主に忠告しよう。やめておけ、あの女には手を出すな」
「何故、そんなことを言う?」
「何故だって。それはお主があの女の真実を何も知らないからさ」
次元監視者の言葉が流誠の心を貫く。
そう、紫騎士は守ると誓いながらも、ティーカのことを何も知らないでいるのだ。
「お主は知らないだろう、あの女が何処から来たのか、あの女が何故ここにいるのか、あの女とクレデターとの因果を、何も知らずに戦っているのだろう」
赤髪の次元監視者は手にしていたコインを上に弾いた。
あのコインがきっとこの青年のMSデバイサーだ。
それならば、コインが青年の手から離れた今こそが最大の好機であるはずなのに、流誠は何もできなかった。
それは、騎士としての自分に揺らぎを感じてていたから。
「お主は知らないんだよ。自分がやっていることで、どれだけの人間が苦しんでいるのかをな」
コインが青年の手に落ちた。そこに刻まれたのは悪魔の刻印。
「表か。ならば、引くか。あの女は小職の担当だが、MSデバイサーを持った現地人となると教会の担当だからな」
そう言うと赤髪の青年は流誠のMSデバイサーが自分をロックしているというのにもかかわらず、背を向け歩き出した。
圧倒的とも言える勝機を前にして流誠は、やはり攻撃できなかった。
確かに胸にあった戦う理由が、青年の言葉で霧のように消えかかっている。
「間抜けな騎士気取りのお主に一言だけ忠告しておこう。
あの女、ティーカ・フィルポーズがいるから、今この地でクレデターが過剰発生しているんだよ」
それだけを言い残して、青年の体は真紅の炎に包まれ、消えてしまった。
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打ち寄せられた波が引くかのようにだらしなく腕を垂れ下げる、紫騎士の脳裏に忘れていたはずの白銀の髪を持つ彼女の、寂しげな笑みが浮かんでいた。
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