9-2:満月~玉露&津樹丸~
9-2:満月~玉露&津樹丸~
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空に満月が浮かんでいた。
『名月』
ベランダに立て掛けられた緑の刃がその刀身に文字を刻んだ。
「そうだね、津樹丸」
その横に立つ玉露は、先程自分で作った団子を片手に満月を眺めている。
玉露の住んでいるマンションはこの辺りでは一番高台にあり、かつ階数も多いので夜空がよく見える。
今日は本家の方より、闇法師討伐の命が下ってこなかった。
要するにフリーな夜なのだが、剣の修行一筋で生きてきた玉露は、夜の楽しみ方など何一つも知らず、かといってテレビを無意味に眺めることも出来ず、こうして相棒と二人お月見となったわけだ。
「はい、津樹丸。っていっても食べれないから、外観だけ楽しんでね」
そう言って玉露は津樹丸の前に、お手製うさぎ型まんじゅうを置いた。
そのまんじゅうの可愛らしい外観は闇法師を狩っている時からはとても想像できないが、これもまた玉露の一面なのだろう。
『美観』
「あはは、ありがとう、津樹丸」
自分も同じうさぎ型まんじゅうを食べながら玉露は笑う。
この世界にたった一つだけ信じることの出来る相棒を前にして、普段はけして出すことのない笑顔がここにある。
「さあ、今日はゆっくりと休んでまた明日からに備えないとね」
空には美しい満月が浮かんでいる。
闇法師との戦いはまさに死闘だ。
闇法師に対して圧倒的とも思える玉露にしても一歩間違えばそこに待っているのは、死という終着駅だ。
来月もまた、こうして津樹丸と共にこの美しい満月を見れるなんて保証は何処にもないけど、また次があるのなら、
「ねえ、津樹丸。今度は一緒に露天風呂でも入りながら、お月見しようか?」
今日よりも少し、楽しい思いがしたいと剣士は願った。
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