8-3:次元を戻るモノ
8-3:次元を戻るモノ
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「あ……やっぱり」
そこにソレがあることを小歌は予感していた。
だから、久方ぶりに次元の裂け目を見ても別段驚きも、恐れもしなかった。
「ゴーちゃん、もしかしてここから、やって来たの?」
「キャニャ~~」
まるで小歌の質問に肯定するかのように、ゴーちゃんは鳴く。
全く心配して損した気分である。
確かにゴーちゃんはこちらの次元に迷い込んできたのだが、それは神の悪戯で一方的に迷い込んできたのではない。
きっとゴーちゃんに取っては自分の庭を散歩するかのような感覚でこちらの次元に来たのだろうし、多分この様子だと前にも何度かこちらに遊びに来ている。
「はあああぁぁぁ」
知らずに小歌の口からため息が零れる。
「もう、駄目だよゴーちゃん、そう何度も何度も次元を行き来していたら。
小歌も聞いた話だけど、こうして他の次元の生き物が、本来いるべきじゃない次元にいるのは、次元そのものに悪影響を与えるんだって。
それに、この次元の裂け目だって何時閉じるか分からないよ。
もし、こっちの次元にいる間にこの次元の裂け目が閉じたら、ゴーちゃんは、元の次元に戻れないかもしれないんだよ。
だ、か、ら、良いこと。もうこの次元の裂け目を通って来ちゃ駄目なんだからね」
今、小歌が目にしている次元の裂け目は小さい部類だ。
辛うじて、ゴーちゃんが通れるぐらいの大きさしかない。
これなら、少なくとも人間が他次元に飛ばされることはないだろう。
「ほらほら、もしかしたら、こうして話している間にも裂け目がなくなっちゃうかもしれないよ。ゴーちゃん、早く、元の次元に戻りなさい。
多分、全ての生き物はあるべき次元にいるのが、もっとも幸せなことなんだから」
名残惜しそうにゴーちゃんが小歌の足にその角をなすりつけてくるが、小歌はゴーちゃんを促した。
折角仲良くなれたのに、これでお別れなんて小歌にとっても辛いことだか、きっとこれがゴーちゃんにとって一番幸せな事なんだと信じている。
「キャナ~~」
小歌の意志を感じ取ったのか、ゴーちゃんも諦め次元の裂け目の方へ歩いていく。
そして、次元の裂け目の手前まで来て、もう一度小歌の方を振り返った。
「バイバイだよ。ゴーちゃん。向こうの次元で幸せに暮らしてね」
手を振る小歌に、別れの雄叫びを上げ、ゴーちゃんが次元の裂け目に消えていった。
「ゴーちゃん………。さよなら」
そして、その次の瞬間、次元の裂け目そのものが消えた。
まるでゴーちゃんがそこに入るのを待っていたかのようなタイミングである。
人為的な意志が作用したのではと疑わずにいられず、そして、小歌はこのような力を持つ者達が日々次元を守っていることも知っている。
「まさか……ライナさん………」
小歌の呟きに答えは返ってこない。
声は風に乗り、この次元の何処かで消えていく。
「そんな訳ないよね………」
小歌は自嘲的な笑みを浮かべた。
心が寂しいと感じているのはきっと、ゴーちゃんがいなくなっただけじゃない。
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