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1-3:ボクは君を守るナイトだ!

1-3:ボクは君を守るナイトだ!


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「あ~美味しかった」

 あれから、流誠の買ったクレープをティーカは一人で1/4程平らげた。ティーカは身長10cm程の掌サイズであることを考えると、驚くべき食欲だ。

 流誠はこのとき、初めて『甘い物は別腹』という言葉が真実であると知った。

「お気に召しましたか、お姫様」

「う~ん。でも、ちょっと食べ過ぎたわ。流誠、飛んでるのきついからあんたの肩使うわよ」

 ティーカは流誠の肩に座り、一息つくのだった。

 紫色の妖精が、そっと彼の頬に肩を寄せてきた。

「ふう。ありがとうね、流誠」

「え? 何が?」

「今日は、本当に楽しかったわ。こんなに楽しいって思えたのは、何年ぶりかしらね。だから、そのお礼よ」

 少し恥ずかしいのだろうか、ティーカの足がバタバタと振られ流誠の肩を叩く。

 でも、その蹴りはちっとも痛くなく、逆に心地よく今日という一日を思い出される。

 わがままな妖精に振り回された一日は、流誠にとっても特別な一日であった。

「なんか、ちょっと意外。ティーカってもっと捻くれてお礼なんて滅多に言わない人だと勝手に思っていたよ」

「その通りよ、流誠。あたし、他人にお礼言うことなんて滅多にないわ。だから、さっきのはすごく貴重なんだから、大切にしなさいよ」

 気がつくと世界は夕日に包まれていた。

 紅く染まった世界の中、流誠とティーカは歩いていく。

 世界が赤から黒に染まっていく黄昏の時間はまさに幸せな一時であった。


 しかし、一日はこれで終わりではないのだ。

 やがては、夜がやってくる。


 ティーカの紫色の羽根がピクリと蠢いた。

「来た」

 すっかり日の暮れた夜道で、ティーカはクレデターの気配を感じ取った。

「ねえ、流誠。あたしはまだ、昨日の返事を聞いていないわ」

「昨日の返事?」

「そうよ。あたしは、言ったわ、あんたは今日からあたしのナイトだと。その返事を聞いてないのよ」

 流誠は言葉に詰まった。

 思わず、昨日負った怪我に視線がいく。

 あの化け物と戦うなんて、小説の世界でもなければ出来ないことだ。

 そして、彼は知っている。自分は大切な人を守れない人間であることを。

 誰よりも自分自身がよく知っている。

「早く言いなさい。じゃないと、あんた、死ぬわよ」

 前触れもなく空から、闇色の物体が降ってきた。

 流誠の肩を蹴り、紫の妖精が飛び立つ。

 上空から奇襲をかけてきたクレデターにティーカは一歩も引かず戦いを挑んでいった。

「シャアアア」

 口から紫色の液体を吐き出して、漆黒の球体状であるクレデターに浴びせかける。

 これは攻撃魔法が使えないティーカにとって唯一無二の攻撃手段。

 体内で形成された対クレデター用の毒素を吐き出すのだ。

 クレデターの毒を浴びた部分が溶解を始めていき、クレデターの悲鳴が木霊する。

 もう一度、毒を吐き出そうとしたティーカだが、しかし、その前にクレデターの触手が彼女の胸を叩いた。

「っぐわ」

 動きを止めたティーカの四肢がクレデターの触手に絡め取られる。

「この、離しなさい。クレデターごときの薄汚れた存在であたしに触るんじゃないわよ」

 語気は相変わらず強いが、その顔には僅かに焦燥の色が見える。

 先程の胸への一撃で、毒素の形成が上手くいっていないのだ。

 時間が経てば治癒するのだが、この状況を切り抜ける術を今のティーカは何一つ持っていない。

「くっ」

 ティーカを締め上げる力が一層増し、彼女は苦痛の悲鳴を上げた。

 

 今、ここにティーカの笑顔はない。


 流誠の頭によぎったのは、生クリームを美味しそうに食べているティーカの笑顔だった。

 あんなにも嬉しそうに笑っていた彼女が今、クレデターと戦い苦悶の表情を浮かべている。

 止めたいと思った。

 彼女にもう一度、笑って欲しいと願った。

 

 戦う理由はそれだけで、充分だ。


 「ティーカ!」

 流誠の叫びがティーカに届き、誓いとなる。


 「ボクは、キミを守るナイトだ!」


 誓いは絆。

 絆は想い。

 想いは力。


 今、ここに一人目の魔法使いが誕生する。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

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