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8-1:次元の迷い猫

8-1:次元の迷い猫


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


キャニャ~~。


 路地裏から奇妙な鳴き声が聞こえてきた。

 とてもこの世のモノとは思えない奇怪な鳴き声に誘われるように小歌は路地裏に入っていき、そして見てしまったのだ。


 羊のようにカールした角を生やし、額に第三の目を持つ猫のような異常な生物を。


 普通の人がこの生物を見れば、化け物だと恐れることだろう。

 だが、ちょっとした特殊な過去を持つ小歌は恐れることなく謎の生物に近づいていった。


 「ふふふ、大丈夫だよ。小歌は味方だよ」


 そう言って謎の生物の前で跪き、安心させるように右手を差し出す。

 猫のような不思議な生物は疑心の瞳で小歌を見つめてくるが、小歌は笑顔のままである。


「キミは、何処の次元から迷い込んできたのかな?

 不安だよね、他の次元に迷い込むっていうのは。

 この恐怖、小歌にもよく分かるよ。だから、小歌は何があってもキミの仲間だよ」


 言葉が通じた訳ではないのだろう。

 しかし、小歌の想いはこの異次元の生物に伝わったのかもしれない。

 まるでそれが信頼の証であるかのように小歌の手をそっと舐めるのだった。

「っきゃは、くすぐったいよ」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 角を生やし、第三の瞳を持つ奇怪な生物を小歌は『ゴーちゃん』と名付けた。

「さて、これからどうしようか、ゴーちゃん。

 もしかしたら、お迎えが来てくれるかもしれないけど、それまでは小歌と一緒に暮らして居ていこうね。

 ゴーちゃんはこの次元の食べ物大丈夫かな?

 小歌はね、慣れるまで三ヶ月も掛かって、最初の頃は何度ももどしていたよ」

 路地裏の先は一台も車の居ない駐車場だった。

 そこでゴーちゃんを抱きかかえながら、小歌は楽しそうに語っていた。

 途中途中に意味を理解しているのか、ゴーちゃんがキャナ~~と不思議な鳴き声で相づちを打ってくるのが何だか楽しかった。

 だが、楽しいときは長続きはしなかった。

 いつの間にか、小歌を取り囲むように黒服の使者が立っていたのだ。

「おい、女。その生物を何処で拾った?」

「そんなの、あなた達には関係のないことでしょう。ねえ、ゴーちゃん?」

「キャニャア~~」

 黒服は見るからに危険なそっち系の人たちなのだが、小歌は気にせず暢気に返事を返した。

 まるでそこに黒服の使者などいないかのように、ゴーちゃんの頭を撫でている始末だ。

「女、調子に乗るっていると、お前まで痛い目を見るぞ。折角の美貌、大事にしたいだろうし、男を楽しませるだけの道具になどなりたくないだろう」

 恐らくリーダー格であろう男がドスの聞いた声で語りかけてくる。

 でも、そんな脅し文句小歌にはなんの効果も無かった。

 小歌はそんな脅しよりももっと過酷な状況下で生きながられてきたのだから。

「う~ん。男の人を楽しませるのは得意だけど、おじちゃん達は小歌の趣味じゃないかな。

 それで、ゴーちゃんを捕まえておじちゃん達は何をするつもりなの?」

「そんな事、女のお前には関係ないことだ!」

 まあ、聞かなくとも何となく想像は付く。

 何しろゴーちゃんは異次元の生物だ。異次元の存在を知らぬとも、この生物がただならぬ生き物であることは一目瞭然。

 もしそっち系の人たちがツチノコを見つけたとしたら、やることは、密売だ。

「大丈夫だよ。ゴーちゃん、小歌が絶対に守り抜いてあげるから」

 小歌の手の中で小さく震えているゴーちゃんを優しく撫で、小歌は珍しく怒りの瞳で黒服達を睨み付けた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



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