M-4:始まる、よ
M-4:始まる、よ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うっ……う~ん、…………あれ、君は、さっき……」
お兄ちゃんが目を覚ました。
「ちょっと、君どうしたの、なんで泣いてるの?」
あたしはまだパラレル・ティーカに変身したままだから、お兄ちゃんはあたしが定香だって気づいてないみたい。
でも、あたしはお兄ちゃんが目を覚ましたことが嬉しくて、思わず泣き出してしまった。
「良かった。もう、お兄ちゃん、あのまま死んじゃうかと思って、怖かったんだよ。
本当、ごめんなさい。
ごめんなさい。
あたし、もう絶対に魔法なんて使わないから。
だから、ごめんなさい。ごめんなさい」
お兄ちゃんを守るはずが、あたしは逆にお兄ちゃんを傷つけてしまった。
あたしが、お兄ちゃんを傷物にしてしまったんだ。
悔やんでも悔やみきれない。
あたしは自分が情けなくて、お兄ちゃんの顔を見ながらずっと泣き続けた。
「ねえ、君、名前はなんて言うの?」
「あたし?あたしは、てい……じゃなくて、弾ける想いを届ける魔法天使 パラレル・ティーカです」
「パラレル・ティーカか。
じゃあさ、ティーカ。もう泣きやんで。ティーカはボクを助けようと魔法を使ってくれたんだよね。確かにちょっと、暴走したみたいだけど、それでもボクは君の弾けるぐらいに膨れあがった『助けたい』って想いを感じられた。
だからさ、ありがとう。
でも、今度からはもう少し気をつけてね」
お兄ちゃんはそう言うと、あたしの頬にそっと触れ、涙をぬぐい取ってくれた。
あたしの顔が刹那も掛からずに、真っ赤に染まる。
「……………、うん。分かったよ」
お兄ちゃんの言葉は魔法だ。
あたしの涙を止めて、こんなにもあたしの胸を締め付けて、苦しいけど、それ以上に幸せっで心が弾けそうになるんだから。
「あの~~。ティーカさん、すみません。自分のこと忘れてませんか?」
ちょっと控えめな声で魔法のステッキがあたしに呼びかけてきた。お兄ちゃんとの二人きりの世界を壊されたあたしは少し恨みのこもった目で魔法の杖を見る。
未だに名前も知らない魔法の杖さんは、どうやら無事だったらしいグリーン・ソードに抱きかかえられていた。
「僕、独りは嫌なんだよ」とか言いながらグリーン・ソードは言葉を喋る魔法の杖に頬ずりなんかしてるよ。
そんな光景を見て、あたし、パラレル・ティーカは、お兄ちゃんもあたしもグリーン・ソードもみんなが幸せになれる方法を思いついちゃった。
「ねえ、グリーン・ソードさん。その杖いりますか?」
「え?」「え?」
あたしの言葉にハモリ声が返ってきた。一方は期待に、一方は悲壮に溢れた声だったけど。
そして、幸せそうなグリーン・ソードと「ティーカさん、これ冗談ですよね。はやく、冗談だって言って。お願いですから、言って下さいよ!! っていうか、自分がいないと魔法天使じゃないでしょう、ねえ、ティーカさん!!」なんて幸せそうに(きっとそうだよね)叫いている魔法ステッキをお兄ちゃんと見送って、あたし、パラレル・ティーカの第一の物語は終わったの。
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