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7-3:彼にとって何よりも大切な事

7-3:彼にとって何よりも大切な事


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「隠れてないで、出てきなさいよ」

 人を喰らった乃花は雪色の傍観者に気づいていました。

 紅く汚れた口元をそっとぬぐいながら、振り返ります。

「ねえ、あなた瀬戸乃花でしょう? さっきの本当のことなの?」

 相変わらずのゴスロリ服で小歌が薄闇から現れます。

 その可憐な容姿に、乃花はアイドルとしてのプライドから軽く嫉妬し、この少女で玩ぶ事を決めます。

「何、バカ言ってるの? あなたその目で見たでしょう。それが真実よ。私は、人を殺して喰った。そして、次はあなたを喰………」


「そんな事はどうでも良いんだよ!!」


 突然の大声に乃花は思わず目を見開き、小歌を呆然と見つめてしまいます。


「瀬戸乃花が人を殺したなんて、小歌には関係のないこと。瀬戸乃花の歌を聴く人には関係のないことなんだよ」


 何だか、とんでもないことを叫んでいる小歌に圧倒され、乃花はもはや何も言えません。

「ねえ、乃花さん。今言っていたよね。次の新曲は悲鳴をテーマにしようかなって。嘘だよね。そんな、人を苦しめる歌なんて、歌わないよね」

「ええ。嘘に決まっているでしょう。そんな暗い歌、私が出しても、売れないわよ」

 小歌に感じた嫉妬は何処へやら、乃花は思わず、本心をこぼしてしまいます。

 それを聞いた小歌はそれまでの張りつめていた表情から一転、向日葵のような笑顔になります。


「よかった~~。もう、小歌、瀬戸乃花が人を勇気づけてくれる歌を歌わなくなるんじゃないかと思って、生きた心地がしなかったよ。あ~本当に、良かった」


 つい先程、ここで一人の人間が乃花に喰われた事など全く気にしていない様子です。

 その小歌の笑顔は逆に、瀬戸乃花を恐怖させます。

 そして、


『成敗』


 緑の刀身に刻まれた二人の意志。

「行くよ、津樹丸」

 闇法師に憑かれた哀れなアイドルを狩るべく、緑剣士は大地を蹴るのです。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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