7-2:信じたくない現実
7-2:信じたくない現実
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ネットとはどんな些細な事でも世界中に伝えることが出来る物です。それが有名人の噂ともなるとまた一段と広まるスピードは速い。
「ふんふんす~~ん」
年頃の女子高生藤永小歌はお風呂上がりに美味しそうなコーヒー牛乳を片手にいくつかの掲示板を回っています。
日本人なら誰でも知っていそうな某有名掲示板から、ちょっとマニアにしか分からないマイナー掲示板、ひしては海外の掲示板まで駆使して、現代人は明日を生き抜く情報を手に入れていくのです。
「すぅ?」
ふと、小歌の顔に影が見えた。
モニターに映っている名前は、瀬戸乃花。
そこに書かれていた見出しは三流週刊誌ですら見向きもされないような幼稚な文字。
『怪奇! 瀬戸乃花が引き起こす謎のファン消失事件!!』
だけど、小歌は知っています。
いや、知ってしまったのです。
この世界にある闇の一面を。
あの日から、常に離さずに身につけている雪色の笛。
魔法使いの証であるMSデバイサーを握りしめ、小歌は立ち上がったのです。
真実を確かめるために。
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照明の落とされた廊下を麗しのアイドルが歩いていた。
皆を虜にする優しい笑顔ははがれ堕ち、あるのは沼気すら感じる妖しい笑みだけ。
ゆっくりとした歩調の先には手足を縄で絞められた数人の男女がいる。
今宵、瀬戸乃花の楽屋にわざわざプレゼントを届けに来た愚かなファン達である。
「あ~~、美味しそうね。良いわ、そんな涙に濡れた顔。私、涙の味って大好きなのよ」
本能が感じる死への恐怖でファンの顔は醜いまでに歪み、断続的な悲鳴を上げている。
「良いわ、悲鳴。笑顔ばかりじゃ、人間つまらないわよね。
ねえ、そうだ、今度の私の新客は、悲鳴をテーマに歌って思うわ?
あなた、どう思うかしら?」
ファンは首がもがれそうなほど激しく顔を上下に動かす。
その顔を瀬戸乃花がしっかりと押さえつけた。
「へえ、あなたも賛成してくれるんだ。嬉しいわ。
だったらさ、その歌の参考にするから、あなた極上の悲鳴……」
瀬戸乃花の唇がファンの首筋に優しく触れた。
「き・か・せ・て」
そして、暗い廊下に、一人の人間の断末魔となる悲鳴が木霊するのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「嘘……」
事の一部始終を呆然と眺めることしか出来なかった白歌姫の呟きはやはり、断末魔の中に掻き消されるしかなかった。
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