37-4:エピローグ
37-4:エピローグ
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電車の到着を告げるベルがなり、銀色の車体がホームに走り込んできた。
「さて、小生はもう行く故な。鳴恵殿は違う電車か?」
「はい。オレは快速ではなくて、普通で帰るんで」
「そっか。では、お別れだな」
「そうですね。所で、ずっと気になっていたんですけど、そんなに決め込んで、何処にお出掛けなんですか?」
そう言って鳴恵は秋生のスーツ姿を眺めた。
一瞬、写メを取れば小歌が狂乱しそうな気もしたがそんな時間はないようだ。
「ああ、そうであったな。実はな、我がアパートに住民第一号がやってくる故な。これからお出迎えに行くところなのだ」
少しだけ恥ずかしそうに秋生が答える。
つくづくレアな姿なだけに、写メを取るべきかと迷ってしまう。
「住民第一号って、あのアパートまだ未完成って玉露が言ってましたよ」
「次元は小生らの予定など気になどしていない。なんとか一部屋は住めるようにしたが、しばらくは窮屈な思いをさせることになるかもしれないな」
「ふふふ。がんばれ、大家さん」
からかい半分で言うと秋生の顔が少しだけ赤くなった。
ホームに走り込んでた銀色の車体が止まり、扉が開かれ、中に乗っていた人を吐き出し始めた。
「小生は、未熟者であるがな」
「大丈夫ですって、いざと成ったら玉露が助けてくれますって。あいつ、最近はオレに会うと半分は秋生さんの話しかしてないんですから。
あ、それに、来月末、また仕事でリリシアがこっちに来るそうですし。ほら、リリシアって口が堅いでしょう。辛いことがあったら、あいつに言えば漏れませんよ」
だが、しかし、リリシアに言えば確実に彼女の友人である鳴恵と玉露には情報が伝わってしまうことだろう。
それにもし、彼女に愚痴を零してしまったら、『この愚か者』と瞳で訴えられ、臑を思いっきり蹴られることだろう。
「リリシア殿に言うのだけは、勘弁したい所だな」
「そうですか? 折角リリシアから面白い話が聞けると思ったのにな」
やっぱりそう言う魂胆だったのか、悪びれた風もなく鳴恵は言った。
人を吐き出し終えた銀色の車体は今度は別の乗客を吸い込み始めた。
定刻よりも遅れているのか、発車ベルが既に鳴り始めている。
「ではな、鳴恵殿。お主もそのうち、玉露殿と共に我がアパートに遊びに来てくれ。
本日より住民も増える故、お主のその真っ直ぐで諦めない想いは、きっと次元を迷い不安を過ごす事になる我がアパートの住民達にとって力になるであろう」
「あはは。なんかそんなに褒められると背中が痒くなりますね。
でも、約束します。オレは自分の進むべき道をちゃんと決めたら、あなたのアパートに遊びに行きますって」
「そうか。ありがとう。待っている、故な」
右手を挙げ、秋生は電車の中に乗り込んだ。
ドアが閉まり、秋生と鳴恵の間から音が遮断される、しかし、想いを伝えるのは言葉だけではない。
鳴恵も秋生がそうしたように右手を挙げ、秋生の想いに答えた。
窓越しに二人は小さく笑い合い、そして、ゆっくりと銀色の車体は動き出した。
数多の物語を紡ぎ続けるために………。
End
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