37-3:エピローグ
37-3:エピローグ
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
構内にアナウンスが流れた。
もうすぐ電車が来る。
しかし、秋生は彼女に伝えなければならない事を思いだした。
「そうだ。これは今度、玉露殿が小生の手伝いに来てくれた時にと思っていたのだが、先に鳴恵殿に伝えても問題はなかったな」
「うん? それってもしかして、あいつらの事ですか?」
自然と鳴恵の声のトーンが低くなった。
別に聞かれても問題のない話なのだが、つい回りの視線を気にしてしまう。
「ああ、今朝、小歌君から連絡が来たのだが、彼らの判決が正式に決まったそうだよ」
思わず息が止まってしまった。
この九ヶ月、ずっと気にかけていた。
鳴恵では祈ることしか出来なかったが、それでもあの桜色の彼女が笑顔でいられる結末をずっと祈ってきた。
次元監視者を辞めてしまった秋生も、そして見習いである小歌も、そして、少ない数ではあるが次元監視者との面識があるリリシアも、本件のために裏で色々と動いてくれた。
全ては、共に戦った仲間達の願いのために。
「それで………」
緊張で喉が渇いたのか、少しだけかすれた声であった。
「クロートを使い、数多の次元を未曾有の危機に陥れた、次元犯罪者、サクラ・アリス。そして彼女の意志に賛同し、彼女の計画に参加した、ティーカ・フィルポーズ、近衛乱、久我流誠。
彼ら四人に、次元監視局は、四人の隔離次元での無期懲役を決定した。
今後、彼ら四人は、次元監視局によって強制的に隔離された次元に輸送される。その次元はサクラ・アリスの能力を持ってしても脱出が不可能な完全な隔離次元。
一度入れば、永劫その次元から出ることは出来ない。彼らはこれから死ぬその時まで、次元と言う名の監獄に永遠に囚われることになる」
秋生は真実のみを淡々と述べていく。
その口調に感情の起伏は殆ど感じられない。
今朝、電話口でこの判決結果を伝えてきた小歌は、思わず受話器から耳を離してしまうぐらいに喜んでいたというのに。
そして、
「っっっしゃあああああ!!」
鳴恵もここがホームであることなど忘れてしまったかのように雄々しくガッツポーズをした。
他の客が何事だといわんばかりに鳴恵を奇異の目で見ている。
「あ?」
やっと自分のしでかした事を自覚した鳴恵は小さく回りに謝罪しながら、秋生に小声で言った。
「やったぜ。流石、来名さん。きっと今頃、サクラの奴、うれし泣きし過ぎて、顔が酷いことになっているぜ」
「いや、どうも、小歌君の情報だと、判決を聞いた瞬間、喜びのあまり失神してしまったようだ」
言葉の節々に熱が入っている鳴恵と対照的に、秋生は淡々と情報を与えていく。
あれだけ根回しをしたのだ。
この判決は当然の結果である。
根回りとは汚いやり方ではあるとは思ったが、この刑はどれだけ恩借が出ても、一生囚われの次元から出ることが出来ないため、これは死刑についでの重刑だ。
次元を崩壊の危機に陥れた犯罪者に見合った刑である。
昔で言うところの島流しと言った所である。
ただ、一点において、違うのは。
「そっか。良かったぜ。これで、あいつらは死ぬまで、ずっと四人一緒に居れるんだな。良かったな、サクラ」
一人一人が別々の次元に飛ばされるのではなく、四人が同じ次元に飛ばされるという事である。
もし、一人一人が別々の次元に飛ばされるのなら、恩借と服役態度によっては釈放も有り得た判決になっていたであろう。
しかし、流誠も乱もティーカもサクラも、誰もそんな判決は望んでいなかった。
彼らは四人で共に暮らせる。
ただそれだけを願っていたのだ。
だから、秋生達は判決が彼らの望んだ償い方になるように根回しをしただけであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




