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M-42:最終話

M-42:最終話


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 あたしとイリル、そして、愛理子と近衛蘭はゆっくりと次元の壁を越えていた。

 行くときは急いでいたから、身体にもの凄い負荷がかかっていたけど、次元をアトロポスで断ち切った今、急ぐ必要はない。

 そう、時間は沢山あるんだ。

 ゆっくりで、良い。

 ゆっくりとアトロポスになったお兄ちゃんを元に戻す方法を探していけば良いんだ。

 

 でも、あたしの手の中にはもうお兄ちゃんの想いはない。

 

 その事は、あたしには耐えられないぐらいに心細かった。

「定香ちゃん」

 愛理子が優しくあたしの名前を呼んでくれた。

 ただそれだけのことで、あたしの中で張りつめていた何かがプツリと音を立てて切れた。

 ずっと、お兄ちゃんがアトロポスになった時からずっと我慢してきた。

 でも、あたしは魔法天使だから、あたしにはお兄ちゃんから託された使命があったから、ずっと我慢してきたよ。


 お兄ちゃん、あたし、ちゃんとお兄ちゃんの想いを届けたよ。

 だから、今は魔法天使パラレル・ティーカじゃなくて、お兄ちゃんの妹の久我定香に戻っても良いでしょう。


 あたしはシリアル・アリスの胸元に飛び込んだ。

 ちょっと悔しいけど、柔らかい双球がふわりとあたしを受け止めてくれて、愛理子があたしをそっと抱きしめてくれた。


 あたしは泣いた。


 何を想っていたのか、

 何を言っていたのか、

 あたし自身も分からない。


 ただ胸の中にずっと貯め込んでいたモノを吐き出した。

 あたし達の次元に戻ったから、あたしがまた戦えるように、この辛く苦しい想いはこうして次元の狭間に起き去っていくって決めたから、あたしは泣き続けた。


 大切な仲間の胸で、あたしの弱い心を全てさらけ出した。


「あれ?」

 

 っとそんな時、相変わらず空気の読めない相棒が場に不釣り合いな気の抜けた声を上げた。

 あたしは愛理子の胸から顔を上げ、涙をふき取り、ひゃっくりが止まらない呼吸を何とか整えて、相棒を睨み付けた。


「なっ何よ、っひ、イリルゥ。 どうしったの?」


 あ、本当にしゃっくりが止まらない。


「あ~。定香さん、まずは落ち着いてください。ほら、深呼吸。吸って、吐いて、吸って、吐いて、はい、もう一回、吸って、吐いて~~」

「イリルさん。確かに定香ちゃんを落ち着かせるのも大切ですが、何か問題が起きたのではありませんか?」


 あたしが言いたいことを愛理子が代わりに尋ねてくれた。

 あたしは視線で”ありがとう”って愛理子に伝えて、深呼吸に専念する。

 早いとこ、このしゃっくりを止めないとまともに会話すら出来そうにない。


 すぅ~~、はぁ~~~。

 すぅ~~、はぁ~~~。

 すぅ~~、はぁ~~~。


「問題……なんだと自分も思いますけど、何って言うのでしょう。

 もしかしたら、自分の思い違いかも知れませんし。変なこと言って、皆さんの不安を煽るのもいかがなものかと思いますが……」

「イリルさん。煮え切らない男はもてませんよ。

 男なら、蘭さんみたく格好良くて、でも時には遊び心も忘れず、ど~~んと構えているぐらいの度胸がないといけません。

 だから、はっかりとお言いなさい!」


 あ、愛理子が怒った。


「はいい!! 実はですね。どうも、定香さん達がいた次元、アトロポスが発動した副作用なのだと思いますが、少し次元変動が発生しており、自分たちが出発したときからコンマ代なんですけど、次元周波数に狂いが生じております。

 自分はつい、そこを見落として、前の次元周波数で次元移動をセットしてしまい、若干ながら、次元移動に狂いが生じてしまったわけです」


 すぅ~~、はぁ~~~。

 すぅ~~、はぁ~~~。

 すぅ~~、はぁ~~~。


 大分、呼吸が正常に戻ってきた。

 でも、深呼吸に半分ぐらい意識を集中していたからイリルの言っていることは半分以上理解できなかった。

 分かったのは、イリルがミスをしたって言う事ぐらい。


「つまっり。あたし、達っひっくは、どうなるの。っひ?」

「え~、簡単に言いますと、微少な次元周波数の違いなので、次元に弾かれてしまう可能性より、その微少な違いを定香さん達自身が無理矢理矯正してしまう可能性が高いです。

 つまり、一瞬ですけど、次元周波数を矯正するために身体がもの凄く揺れてしまいますので、ご注意ください」

 イリルが言い終わるや否や、その通り、あたし達の身体は強烈に揺れた。

 っちょっと、これ、揺れるとか言うレベルの話じゃないわよ。

 とか罵倒を心の中で叫びつつ、あたしは揺れに耐えきれず、意識を失っていった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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