M-41:弾ける想い
M-41:弾ける想い
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アトロポスと次元の間で火花が散っている。
でも、あたしは負けない。
四人の想いをぎっしりと弾けそうなぐらい詰め込んだこのアトロポスが負けるはずなんて無い。
あたしはさらにアトロポスを次元の壁に押し込んだ。
「あたしは、ただお兄ちゃんが好きなだけなの!!」
真っ黒な次元に少しずつだけど確実に亀裂が走っていく。
もうすぐだよ、お兄ちゃん。
もうすぐ、あたしはお兄ちゃんの想いを届けることが出来るよ。
ねえ、お兄ちゃん。アトロポスになって消えてしまったお兄ちゃんがどうやったら元に戻るか分からないけど、あたしは絶対にお兄ちゃんを蘇らせてみせる。
そして、今度は、あたしの”お兄ちゃんが大好き”っていうこの弾けまくった想いを届けるための魔法天使になるの。
「あたしは、今すぐこの想いを届けたいの。次元だか、なんだか知らないけど、あんたはまさにあたしのお兄ちゃんの愛の障壁なのよ!!」
想えば、随分と遠回りをしてしまった気がするよ。
あたしはただお兄ちゃんが可愛いって言ってくれたから魔法天使になっただけなのに、その後、お兄ちゃんの命を狙うもう一人の魔法天使が現れたり、彼女とガチンコな女同士の真剣勝負を繰り広げたり、はたまた、そんな彼女の想い出の世界で彼女の本当の想いをしったと思ったら、今度はお兄ちゃんがアトロポスになって消滅してしまって、今はお兄ちゃんの想いを届けるために、次元なんてぶっ飛んだ物を斬ろうとしている。
でもね、お兄ちゃん、あたし分かったよ。
あたしは、やっぱり、どうしようもないくらい、お兄ちゃんが好きなんだって。
そんな当たり前の事を言葉に出せる勇気をやっと持つことが出来るようになったの。
だから、
「あたしとお兄ちゃんの恋の邪魔をするな!!!!」
あたしは想いをアトロポスに乗せ、吼えた。
その瞬間、あたしには確かにお兄ちゃんの”定香”って優しい声が聞こえた。
「あたしは、ただ、お兄ちゃんと幸せになりたいだけなのよ!!!!!」
あたしの愛が弾けた。
その瞬間、アトロポスが次元を断ち切る感覚をあたしはしっかりと感じ取った。
あたしの眼前で次元がまるでステンドグラスが砕け散るかのように粉々になって、やがて消えていった。
終わったの?
肩で息をしながらあたしはアトロポスを見つめた。
お兄ちゃんの想いの結晶は役目を終えたかのようにその光を鈍らせていた。
それは、考えたくなんてないけど、まるで死んでいるかのようだった。
「お兄ちゃん? ねえ、お兄ちゃん!! お兄ちゃん!?」
あたしは何度もアトロポスに呼びかけた。
だけど、アトロポスはなんの反応も返してこない。
あたしがどれだけ想いを注ぎ込んでも、まるで枯れた泉であるかのように、輝きを取り戻さない。
それどころか、
「え?」
まるで最初からこの世界に存在していなかったかのように、少しずつその存在が薄れていき、やがてあたしの手の中から完全にその存在を消してしまった。
まるで、あたしの前でお兄ちゃんがアトロポスに変わってしまった時のように、アトロポスも消えてしまった。
「定香さん」
あたしの前にイリルと近衛蘭を抱きしめた愛理子が浮かび上がってきた。
「ねえ、イリル、愛理子。どうしよう。アトロポスが、……消えちゃったよ。
お兄ちゃんの想いが………枯れちゃったよ。お兄ちゃんが、これじゃあ、お兄ちゃんが!
ねえ、助けてよ。お兄ちゃんの想いを……助けてあげて」
あたしは縋るかのようにイリルと愛理子に詰め寄った。
けど、あたしだってこれが意味する答えは分かっている。
でも、分かりたくない。
あたしは諦めが悪い女なの。
こんなの絶対に認めない。
だって、あたしはこれからやっとお兄ちゃんと一緒に、なるはずだったのに。
どうして、こうなるの!!!
愛理子と近衛蘭の二人は目を伏せ、イリルが静かに言った。
「定香さん。アトロポスはその使命を全うしました。これは、誰の目にも明らかな事です。
こんなのは何の慰めにもならないとは思いますが、アトロポスが世界を、定香さん達の世界だけじゃない。もっと多くの世界を救ったのです」
そんなのじゃない。
あたしが欲しいのは、そんな言葉じゃない。
あたしが欲しいのは、ただ、あたしを呼ぶ、お兄ちゃんの声。
それだけなの。
「定香さん。帰りましょう。あなた達の世界へ」
イリルの言葉が聞こえた瞬間、あたしの身体は紫色の光に包まれ、再び次元の壁を渡るのだった。
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