M-40:咲き乱れる想い
M-40:咲き乱れる想い
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あたしの手を離れたイリルがラケシスと呼ばれていた銀色の魔法石をはじき飛ばした瞬間、あたしは上空に向かって一気に飛び立った。
前に、直角90度のコースを一気に昇りつめるジェットコースターをテレビで見たけど、そんな感じで、舞い上がる。
あたしが見上げる先には、まるで宇宙空間みたいな暗闇が存在していた。
これが次元か。
これを断ち切るために、お兄ちゃんはアトロポスの封印を解いた。
その想いを届けるためにあたしはここに来た。
あたしはアトロポスを振り上げ次元に向かって一気に振り下ろした。
だけど、アトロポスは次元を断ち切ることは出来ず、見えない障壁に弾かれてしまった。
「駄目なの。あたしの想いじゃアトロポスを使えないっていうの………」
あたしの想いが弱まろうとしている。
駄目だ。
駄目な方向に物事を考えては。
あたしは魔法天使パラレル・ティーカ。
お兄ちゃんに告白して、お兄ちゃんと幸せになって、そして、愛理子と近衛乱とあたしとお兄ちゃんの四人でダブルデートをしてみせるんだ。
「蘭さん!!」
想いが吹き上がってきた。
これはあたしの想いじゃない。
あたしとよく似ているけど、あたしよりもさらに強い桜色の想いだ。
あたしは視線を下に向けた。
そこには、桜色の彼女と、黒蘭色の彼がいる。
あたしはまるで本当の天使になったかのように、一つの恋を見守った。
「わたしは、あなたが大好きです。
ずっと前から、あなたへの想いは満開で、咲き続けていました」
そこでは、シリアル・アリスが黒蘭色の人影に抱きついて、その秘めた想いを語っていた。
「好きです。好きです。大好きです。
だから、お願いします。返して下さい、わたしの蘭さんを。
戻ってきてください、わたしのお兄様。
好きなんです。想いが咲き乱れて、満開なのです。
この想い、受け止めてください」
シリアル・アリスが黒蘭色の人影―いや、クレデターに飲み込まれた近衛蘭の顔を見つめていた。
クレデターに飲み込まれた彼の顔には何のパーツもないはずだけど、きっと愛理子にはその黒蘭色だけに染め上げられた顔に、愛する人の全てが見えているのだろう。
愛理子がそっと目を閉じるのが分かった。
「蘭さん、わたしのお兄様、そしてわたしの愛しい人。
知っていますか、どんなに汚れていても愛する人への想いは変わらないのですよ」
そして、シリアル・アリスが黒蘭色の彼に口づけをした。
それが、シリアル・アリスの魔法。
秘めた想いを咲き乱れさせ、満開にする彼女の魔法。
満開にするのは何も彼女の想いだけではない。
彼の秘めた想いもまたシリアル・アリスは満開にさせた。
そして、想いが魔法に変わる。
彼の身体が、一瞬で桜色に染まり上がった。
それは狂気ではなく、愛情の桜色であった。
二人の桜色の想いが黒蘭色の悪意を塗りつぶした。
彼から桜色の光が消えた時、そこには黒蘭色が全てそげ落ちた、近衛蘭その人が立っていた。
「サク………ラ?」
「はい。お兄様!」
シリアル・アリスが眩しい笑顔で、近衛蘭に抱きついた。
あたしは、視線を再び上に上げた。
そこにはあたしがお兄ちゃんへの想いで斬らなくてはならない次元が存在している。
あたしは再び、アトロポスを構えた。
その次元を断ち切る剣は輝いていた。
紫、青銅、桜、黒蘭、四人の想いをそのまま魔法に変え、光輝いていた。
「いくよ。お兄ちゃん。今度こそ、想いを届けてみせる」
そして、あたしはアトロポスで次元を斬りつけた。
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