36-3:本当の彼女
36-3:本当の彼女
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ずっと閉じていた瞳がついに開いた。
ずっと暗闇にとらわれていた世界についに光が戻ってきた。
明るかった。
眩しすぎた。
ずっと狂気の桜色の中で生きてきた彼女に、光はまぶしすぎた。
彼女は、もう一度瞳を閉じようとしたが、それよりも早く闇が、とても優しい闇色が彼女の光をさえぎってくれた。
彼女はこの暖かい闇をとてもとく知っている。
多くの色に彩られた世界であって、この闇色にもう一度会いたかったから、自らの世界を狂気染め上げたのだ。
そして、信じていた。
この狂気の桜色が晴れたとき、そこにはきっと彼がいると。
まさにそのとおりだった。
「あは、乱君だぁ」
ベッシっ!
「いったぁぁ。乱君、いきなり、そうそう、何んて事をするの。相変わらず、ひどいぉ!」
サクラは頬を膨らませ、目覚めそうそう額に平手打ちを打ち込んできた近衛乱不平を唱える。
対する乱は、苦笑いを抑えられない。
「何が、”乱君だぁ”だ。もっと他にいうことがあるだろうが、この天然娘!!」
「えっ? あ、じゃあ、乱君、また一段と格好良くなったね」
ベッシっ!
「はぅぅ。だから、痛いって乱君。もおぉ、乱君は前にもまして一段と意地悪な性格になったみたいで、わたしはシクシク泣き出しそうだよ」
再びの平手打ちに額をさすりながら、サクラが本当に涙目になっていく。
そんな、出会って、恋して、愛し合った頃のままの彼女に乱はため息をついた。
「お前は、自分が何をしたのか、ちゃんと覚えているのか?」
「もちろん、覚えているよ。わたしは、許されない事をした。多分、色々な人を傷つけちゃったし、次元まで生み出しちゃった。
これじゃあ、乱君みたいに刑務所入り確定だね。だから、あたしはこれから本当に多くの人に謝り、許して貰えるか分からないけど、償いの人生を歩まなくちゃいけない」
「そこまで、覚えていて、私への謝罪が無いのは何故だ?」
「だって、それは……」
サクラは言葉を詰まらせ、恥ずかしそうに瞳を逸らした。
「何故、黙る」
「だって、乱君は、わたしの、最高に格好いい騎士なんだもん!!」
サクラの頬が一気に朱に染まり、継いで乱の頬も赤くなった。乱は三度、だが今度は優しくサクラに平手打ちを加えた。
「馬鹿が。答えになってない」
「でも、言いたいことの想いは伝わったでしょう」
サクラがニッコリと笑った。
卑怯すぎるなと乱は心の中で呟いた。
サクラのこんな表情を見れば、もはや何も言い返せなくなる。
つくづく、甘い騎士だなと自負しながら、もう一度苦笑いを浮かべた。
「ねえ、乱君。乱君は、狂気に染まったわたしを見て、どう思った?」
「くだらない。どんなに狂っていても愛する人への想いは変わらないさ」
サクラは瞳をぱっちりと大きく見開き、そして満開の桜のような笑顔を乱にだけ見せつけた。
「うん、ありがとう。乱君」
そして、勢いよく愛する人に自分の唇を重ね合わせた。
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