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36-2:受け継がれる想い

36-2:受け継がれる想い


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 紫の魔法天使が持つ、杖。

 過度とも思えるほど装飾されたソレは、他の物が見れば、変身ステッキに見間違えてしまったかも知れない。

 しかし、次元監視者である彼だけは、その杖が何者であるか知っていた。

 当然である、彼らは同業者であるのだから。


『お主が、イリルだな』

『はい。こうして直接お話しするのは、初めてですね。ですが、自分もあなたのご活躍は何度も耳にしておりますよ、次元監視者、来名秋生さん』


 次元監視者のみが使うことが出来る共有ネットワークを使い、テレパシー通信をする二人の次元監視者。


『小職も、お主の噂を聞いていた。フェイトが一つ、アトロポスを追う次元監視者がいるとな。しかし、まさか、この場に現れるとは思っても見なかった』

『あ、ソレは自分もです。でも、定香さん……。あ、自分を持ってます、この如何にもわがままそうな人の事です。

 定香さんは一度決めたら、もう絶対に自分の忠告なんて聞かない人でしてね。もう、止める間もなくここに来てしまった訳ですよ。あははは』


 もはや、諦めの境地に達しているのか、テレパシー越しにイリスの乾いた笑い声が聞こえてきた。

 だが、白銀の髪を持つ彼女と出会った今の秋生になら分かる。

 この乾いた笑い声は、イリルの定香への信頼から来ている声なのだと。

 だから、なのだろうか。

 秋生は柄にもなく意地悪な質問をしてみた。


『しかし、アトロポスがあれば、次元を止めることが出来るかも知れぬが、そのMSデバイサーはもっとも扱いが難しいMSデバイサーである。

 あそこまで成長を始めた次元。果たして、その少女に斬ることが出来ると思っているのか?』

『もちろんですよ。定香さんの想いの強さは、彼女の腕の中でずっと見てきました。

 だから、これは断言出来ます。彼女はアトロポスを扱いこなせます。もし、扱いきれないのなら、その持ち前の向こう見ずなハングリーさで、彼女のお兄様への想いを何倍にも弾けさせて、無理矢理にでも使いこなしてしまいます。

 久我定香、自分の選んだ魔法天使パラレル・ティーカはそういう人なんですね。ちょっと、自分への扱いが酷いのが玉に瑕なんですけどね』


 イリルは迷い無く言い切った。

 彼がそこまでいうのなら、大丈夫なのだろう。

 そう確信した秋生は地面に腰を下ろし結末を見届けることにした。

 自分が最後に担当する事件の終わりを心に焼き付けるために。

「ねえ、ライナさん」

 そんな彼のすぐ横にゴスロリ姿の歌姫も腰を下ろしてきた。

 彼もまた、アトロポスを持つ天使を見守りながら、静かに尋ねてきた。

「ライナさん。次元監視者を辞めるつもりなんでしょう。クロートを発端としたこの事件で、次元を危機に陥れた責任を取るために……」

 幸多はいつから秋生の決意に気づいていたのだろうか。

 秋生は静かに自嘲的な笑みを刻み込み、付け加えた。

「それだけではない。小生はこうして、幸多殿や近衛乱達、次元監視者ではない者達を、他の次元に招き入れた。クロートを止めるためにはこれしかないと判断したが、次元監視者に取ってはこれは次元を不安定にさせる禁忌である。その禁忌を犯した罰も含め、この事件が終われば、小生は次元監視者を辞める」

 朱の次元監視者が見つめる先で、紫の魔法天使がその相棒をラケシスに向かって投げ飛ばした。

「もっとも、この事件ももうすぐ終わるようだがな」

 その呟きが小歌に届いたのか、あるいは届かなかったのか。

 

 朱天使の決意は、白歌姫の決意に繋がった。


「なら、小歌も決めたよ。ライナさんの、その想いを、今度は幸多が受け継ぎます」


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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