36-1:貴志
36-1:貴志
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その天使はティーカと瓜二つの容姿を持っていた。
違いと言えば、自ら魔法天使と名乗ったティーカは妖精サイズではなく、流誠と同じサイズであるという事ぐらいであった。
状況は理解できない。
まるでアニメの魔法少女物のような衣装に身を包み込んだ二人の魔法天使。
彼女たちが何者であるか、分からない。
だが、今、流誠がしなくてはならないことだけは明確である。
「ティーカ!」
魔法天使パラレル・ティーカが刹那、流誠の方を振り返った。
その瞳に宿っていた想いは哀愁であった。
何故、彼女がそんな瞳をしているのか分からない。
だが、ティーカと同じ顔の少女にそんな表情をされると守ってやらなければと勝手な使命感も沸き上がってくる。
しかし、流誠は想いを断ち切った。
彼女はティーカではない。
いや、もしかしたら、彼女もまたティーカなのかもしれない。
しかし、彼女は流誠の知るティーカではないのだ。
「ティーカ。ボクは君を守る騎士だ」
騎士の気高き志を想いに秘めて、流誠はティーカの元に駆けた。
MSデバイサー―プロミス・オブ・スマイル―は、壊れた。
もはや魔法は使えない。
だが、それが何だというのだ。
流誠はティーカを守る騎士である。
そう、彼は騎士であるのだ。
騎士であり続ければティーカを守り通すことが出来る。
例え、魔法使いでなくなっても、騎士であり続けてさえいれば、それで十分なのだ。
「ティーカ、大丈夫?」
「馬鹿。魔法が使えないくせにどうして来たのよ」
「魔法が使えなくても、ボクとティーカの誓いは消えてないからね」
「シャアアアアアア! あんたは本当に、根っからの、どうしようもない、騎士ね」
「っふ。お褒めにあずかり光栄です」
ティーカと流誠。
状況は限りなく最悪に近いというのに、二人の会話からは、絶望や恐怖と言った負の感情は一切見つけられない。
そこにあるのはただ、互いを信頼しあっている絆であった。
そんな絆を目の辺りにして、桜色の世界に青銅色の閃光が煌めいた。
「ねえ、あなた達の名前、教えてくれない?」
ティーカと黒蘭色のクレデターの間に立ち、青銅色の剣を握りしめた紫の魔法天使が優しく尋ねてきた。
その声音からは、先程見せた哀愁の想いは感じられない。
感じられるのは、決意という名の強い意志であった。
「あたしは、ティーカ・フィルポーズよ」
「ボクの名前は、久我流誠だけど………」
紫の魔法天使の意図が分からず、流誠とティーカはつい歯切れの悪い答えを返してしまう。
しかし、彼女にはそれで十分だったみたいだ。
「あたしの名前はね、久我定香。二人とも、そのまま想いを弾けさせて幸せにならなちゃ、このあたしが許さないんだからね」
何故か勝手に宣言し、魔法天使は手にした青銅色の剣を黒蘭色のクレデターに向け、その背中から生やした美しい翼をはためかせ、飛んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




