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35-9:ただいま参上、よ

35-9:ただいま参上、よ


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 白銀の魔法石から魔力があふれ出していく。

 あふれ出した魔力は生み出されたばかりの次元に飲み込まれていき、次元を成長させていく。


 次元を司るMSデバイサー、フェイトは一つではないのだ。

 次元を生み出すのが黄金の腕輪、クロートであり、生み出された次元を育て成長させるのは白銀の魔法石、ラケシスであるのだ。


 生み出された次元が急速に成長を始める。

 桜色の次元が崩壊するのではないかと思われるほど激しく次元振動を繰り返していく。

 このままでは、他の次元の崩壊を招きながら、あの新しい次元が成長を続けていく。



 止めなくては。



 七人の魔法使いは、しかし、皆敗北を期している。

 ある者はMSデバイサーを失い、ある者は魔力そのものが使えなくなり、ラケシスの前にいる七人の魔法使いは、皆、次元の成長を止める術を持っていない。


 しかし、魔法が使えずとも、魔力の根元である想いだけは誰一人として枯れてはいなかった。

 七人の魔法使い達が立ち上がる。


 次元を守る。

 理由や想いは違えど、七人の魔法使い達の目的は同じである。


 黒蘭色のクレデターが吼えた。

 それは魔法の振動となり、七人の魔法使い達を余すことなく壁に叩き付けた。

 まるで、これが勝利の雄叫びであるかのように再び、黒蘭色のクレデターが吼えた。

 七人の魔法使い達は為す術無く壁に押さえつけられ、骨が軋む音、血が体内を逆流する音、七人が奏でる不調和音が聞こえた。



 黒蘭色の魔法が消えた。

 魔法使い達は地面に倒れ伏す。

 誰一人として起きあがれない。

 想いに身体がついていかないのだ。


 何処までも成長を続ける新たな次元。

 その余波を感じることに至福を味わっていた黒蘭色のクレデターは七人の魔法使い達を標的から外した。

 次に彼が狙うは、

「ティーカ……」

「サクラ……」

 ティーカと、未だに眠り続けているサクラの二人である。

 黒蘭色のクレデターの胴体に大きな孔が空いた。

 まるでブラックホールのようなそれは、全てを飲み込まんとするかのように禍々しく渦巻いていた。

「っひぃ」

 ティーカが引きつった悲鳴を上げる。


 しかし、剣士も、歌姫も、天使も、人形も、闘士も、そして、二人の騎士も、魔法が使えず、身動きすら取れない。


 黒蘭色のクレデターが一歩前に出る。

 流誠が拳を握りしめるが、やはり身体が言うことを聞かない。


 黒蘭色のクレデターがもう一歩前に出る。

 乱は声感を振るわせるが、それは声にすらならなかった。


 黒蘭色のクレデターがティーカとサクラの前にやって来た。

 ティーカは大切な友を守るべく体内で形成された毒液を吐き出すが、ソレは呆気なく黒蘭色のクレデターの胸に吸い込まれていった。



 もはや技も、策も、術も、何も残っていなかった。


 残っていたのは、想いのみ。

 

 想いで何かを変えることは出来ない。


 七人の魔法使い達に敗北という文字が浮かんだ。


 しかし、想いは消えなかった。


 想いで何かを変えることは出来ない。


 しかし、何かを変えるには想いが絶対に必要なのである。





 だから、その想いを届ける天使がいる。




 青銅の閃光が、次元を照らした。




 そして、七人の魔法使い達が見守る中、黒蘭色のクレデターの前に、



「弾ける想いを届けるため 魔法天使パラレル・ティーカ ただいま参上、よ」

「秘めた想いが咲き乱れる 魔法天使シリアル・アリス  まもなく満開、ね」



 紫色と桜色の衣装に身を包んだ、二人の魔法天使が舞い降りた。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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