35-6:六人目の敗北
35-6:六人目の敗北
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彼女は魔法が使えない。
それが彼女の弱さであり、そして、それこそが彼女の強さである。
桜色の絆が与えてくれた六度だけ許された魔法。
残された奇跡は一度のみ。
後、一度だけ魔法を使えば、鳴恵はただの人間に戻ってしまう。
魔法など使えないただの人間に。
しかし、それが何というのだ。
彼女は元々魔法が使えなかった。
使えないなら使えないなりに戦ってきた。
魔法が使えないのなら、使えないからこそ出来ることを探し、戦えば良いだけである。
小歌が、リリシアが、流誠が、そして、秋生が負けた。
残された魔法使いは三人。
その三人は同時に黒蘭色のクレデターに攻撃を開始した。
しかし、四人の魔法使いを倒しただけのことはある。
黒蘭色のクレデターは鳴恵の拳、玉露の剣、乱の足、その全ての攻撃を優麗な動きで退けたのである。
三人の攻撃は止まらない。
鳴恵と玉露のコンビネーションも黒蘭色のクレデターの前では無意味であった。
三人の攻撃は一度も当たらない。
焦る心を押さえ込む。
輝く心を信じ続ける。
けして諦めない事、それがかつて鳴恵が大切な友から受け継いだ意志である。
どれだけ攻撃が当たらずとも、どれだけ敵との戦力差があろうとも、諦めない。
心の輝きを鈍らせたりなどしない。
鳴恵の攻撃は止まらない。
そして、そんな彼女に牽引されるかのように玉露と乱の攻撃もまた衰えを見せない。
クロートは既にその輝きを失っている。
ならば、狙うは銀色の魔法石、ラケシスのみである。
左の拳を握りしめた。
「オレはこの戦いが終わったら、あいつらと温泉に行くって約束があるんだよ」
そして、左の拳の魔法石から魔力が流れ込み鳴恵の拳が黄金に光り輝く。
玉露がさらに前に出て、まるでそこに鞘があるかのように津樹丸を背中に押し当てた。
友の緑色の相棒めがけて鳴恵は黄金の拳を殴りつけた。
「Thunder BreaK」
雷の轟音が鳴り響き、玉露が神速の速さで押し出される。
それは黒蘭色のクレデターでさえも捉えられない速さであり、津樹丸がラケシスをはじき飛ばした。
空へ舞うラケシスを鳴恵は追わなかった。
両手にはめていたMSデバイサーから全ての魔法石が消え、魔法を使い果たした彼女はそれでも前に進む。
黒蘭色のクレデターの視線がラケシスに向けているその瞬間を狙い、鳴恵はその左腕にはめられたクロートに飛びかかったのだ。
もはや、封印され起動すら出来ないクロートに黒蘭色のクレデターは興味はないのか、クロートは簡単に彼の腕から外れた。
確かに、これはもはやMSデバイサーとしての意味はないのかも知れない。
しかし、魔法が使えない鳴恵にとって起動するMSデバイサーも起動できないMSデバイサーも大差ない。
大切なのはそこではなく、そのMSデバイサーに籠められた想いである。
「ほら、見てみろ、サクラ、ティーカ。ちゃんと、クロートを取り戻したぞ」
六人目の魔法使い―金闘士:神野鳴恵―の敗北は、魔力という輝きを失ったが、絆という輝きを取り戻した敗北であった。
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