35-2:三人目の敗北
35-2:三人目の敗北
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突如として出現した黒蘭色のクレデターを前にして、小歌は首から提げている雪色の笛を握りしめた。
理屈は分からないが、この黒蘭色のクレデターは”やばい”。
久我流誠と出会い、来名秋生と再会して、白歌姫として戦ってきた日々に培われた戦士としての勘が最大限の警告音を発している。
七人の中でもっとも戦闘経験が少ない小歌でさえそう感じるのだ。
他の魔法使いはもっとより一層の危機感を抱いていることだろう。
小歌は小さく息を吐き出した。
この桜色の空間は少し寒いのかその息は僅かに白かった。
雪色の笛を握りしめ、ゆっくりと口元に運んでいく。
そして、小歌の瑞々しい唇と雪色の笛がまさに重なり会うかという瞬間、それが起きた。
「!?」
初め、これが何であるか分からなかった。
まるで連続的に起きる地震であるかのように体が、世界が、次元が、揺れ続けていた。
刹那、あの雪の降り積もる世界で、小歌として生きていた想い出が蘇った。
「これは、次元振動……。いや、次元生成の副作用か」
次元監視者である来名秋生が苦虫を噛み潰したよう呟いた。
その言葉の意味を理解した時、小歌の背中に戦慄が走り抜けた。
次元の揺れは未だに収まる気配を見せていない。
これが次元生成による次元振動だとしたのなら、果たして他の次元は無事なのであるか。
幸多が生まれ育った次元、
小歌が娼婦としてしか生きられなかった次元、
来名秋生の生きている次元、
ゴーちゃんが生きている次元。
小歌の知る数多の次元が消滅の危機に立っている。
「止めないと。そんなのは絶対に止めないと駄目だよ」
小歌の声は七人の魔法使い全員の意思であった。
フィィィィ
白歌姫から紡がれる旋律の音色。
これが始まりの合図であった。
雪色の防御壁が黒蘭色のクレデターを包み込むと、スピードで勝る秋生とリリシアが一気に黒蘭色のクレデターに肉薄して、遠距離攻撃を有する流誠が紫の魔法弾にて先制攻撃を仕掛けた。
しかし、小歌の防御壁は黒蘭色のクレデターの一振りでガラスのように砕け散った。
肉薄した四人目と五人目の魔法使いの真横をすり抜け、紫の魔法弾をまるでキャッチボールでもするかのように易々と掴んだ黒蘭色のクレデターは、今度は逆に白歌姫に肉薄してきたのだ。
腕に掴んだ紫の魔法弾が小歌の眼前に迫る。
フィィィィ
慌てて白の防御壁を形成するが、流誠の魔法の上からさらに黒蘭色の魔力が乗せられた魔法弾は小歌一人の魔力で防ぎきれる代物ではなかった。
白の防御壁に亀裂が走る。
それだけではない雪色の笛にさえも亀裂が走る。
しかし、小歌は逃げなかった。
小歌は幸多。
この命に代えても、次元を守り抜きたいと想い続けている魔法使いだ。
雪色の笛が白く発光した。
最後の力と想いを魔法に変えて、白歌姫は渾身の魔法を奏でる。
フィィィィィィ
雪色の笛が二つに割れた。
しかし、白歌姫が最後に奏でた魔法は雪色の十字架となり、黒蘭色のクレデターを絡め取った。
三人目の魔法使い―白歌姫:藤永小歌―彼の敗北は、しかし、仲間達へと繋がる敗北であった。
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