34-3:発動
34-3:発動
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怖くないといえば、そんなのは誰にも見破られる嘘だ。
本当は今すぐ逃げ出したい。
今すぐ乱君の腕の中で思いっきり抱きしめて貰いたい。
乱君と唇を重ね合わせて快感を共有したい。
狂気の想いから救い出してくれた彼をもっともっともっと感じていたい。
そんな欲望や愛情を必死に押さえ込み、サクラはクロートと乱のMSデバイサーである―プロミス・オブ・AS―を握りしめた。
一度歩み出した道はもう戻れない。
乱君は確かに目の前にいるけど、あの時もう一つの次元で乱は確かに、サクラの目の前でクレデターに喰われたのだ。
引き戻るわけには、いかない。
あの瞬間からずっと聞こえているこの声に背を向けるわけにはいかない。
「Start Up」
プロミス・オブ・ASの漆黒の表面に短い呪文が刻まれる。
それは起爆剤。
この世界に新たな次元を生み出すための、そして愛する人を蘇らせるための始まりの狼煙だった。
サクラ・アリスは最後に近衛乱の姿を焼き付けた。
乱君は私の恋人だから、きっと私の思っていること、考えていることはずべてお見通し。
だから、ごめんなさいって謝って、ごめんなさいってお願いするの。
クロートを起動するのは怖い。
けど、信じている。乱君を、そして、私自身を。
だから、躊躇わない。
狂気ではなく、決意の瞳を持って、サクラ・アリスは、プロミス・オブ・ASをクロートに押し当てた。
遂に、次元を生み出すフェイトが一つ、クロートが起動した。
その瞬間、サクラの体が弾かれた様に震え、その場に倒れ伏せた。
まるで、雷にでも撃たれたかのようにサクラ・アリスの体が動かなくなった。
彼女の手からクロートがこぼれ落ちる。
転がった金の腕輪はこれまでに溜めてきた魔力を解放し、新たな次元を生み出すべく起動した。
「サクラ。おい、サクラ」
クロートを追わねばならないと分かっていても、乱の体と心はそんな理屈を無視してサクラの元に駆け寄っていた。
乱の腕の中、サクラは魔力だけでなく生気さえもクロートに吸われたかのように憔悴しきっていた。
魔力とは想い。
想いを全て吸い取られた者は果たして生きていけるのだろうか。
生きるという想いさえも吸い取られてしまったのなら、その先にあるのは死だけではないのか。
「サクラ!! サクラ!!」
必死に呼び続ける乱の腕の中、サクラが僅かにだけまぶたを開けた。
その奧にある瞳はまはや何も映し出していないのではないかと思うほど、暗かった。
今にも生きるという線が切れそうなほどに弱々しい声で、サクラは呟いた。
「らん…くん。ごめんな……さい」
大好きな彼に伝えたかった言葉。
想いを遂げた彼女は、愛する人の腕の中で安らかに静かに眠りについた。
「お前は自分が何をしたのか。分かっているのだろうな。このマゾ娘が。だが、それでも私は、お前の騎士だ。
何時だって、お前一人ぐらいなら、私が、守ってやるさ」
愛する女性をその体で感じながら、騎士は静かに宣言した。
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