6-1:お誘いは甘い罠
6-1:お誘いは甘い罠
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「久我先生、おひさ~~」
流誠の肩の上で、生クリームを舐めていたティーカがピクリと反応した。
笑顔が一転、鬼の形相に様変わりする。
しかし、声の主はそんなティーカの変化など気にせず、何の躊躇いもなく流誠の隣に腰を下ろした。
ついでに、柔らかい胸を押しつけた。
「や、やあ、藤永さん。久々だね」
「本当、久々だお。先生、小歌の事避けてたでしょう。小歌、先生に会いたくて会いたくて仕方なかったのに、先生たっら全然、小歌に会いに来てくれないんだもの。
あの一夜の事、そんなに気にしているの……。大丈夫だよ、あれは先生のせいじゃないから、小歌と先生、二人の合意の上……、むぐ」
なにやら事実無根の話を始めた小歌の口に流誠は手にしていたパンを押し込んだ。
例え、冗談でも笑えず、流誠の雇用にも影響してくる話だ。
「むぐ、むぐ、むぐ…………。これって、先生との間接キスって奴?」
しかし、小歌は全くめげなかった。
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「で、流誠。あんた、あの色物女の話、信じる訳?」
翌日。
講義が終わり、フリーの身になった流誠はとある場所に向って歩いていた。
肩には、いつもごとくティーカが座ってるが、その顔はもの凄く不機嫌だ。
「そのつもりだよ。ティーカは藤永さんのことだから、嘘だと思っている見たいけど、あの人は、こんな姑息な嘘を付く人じゃないよ」
「へえ~~、なんか知ったような口ぶりね。正直、気にくわないわ」
「あはは。ボクはこれでも教師の端くれだからね。一応、自分の教え子達がどんな子かぐらいは知っているつもりだよ」
「それは要するに、あんたは数百人の女性を知ってるって事ね。ますます気にくわないわ」
ますます機嫌の悪くなるティーカに流誠は苦笑いを浮かべる。
「ねえ、ティーカ。一つ聞いて良い? これから、ボク達が行く場所、どんな所か知ってる?」
「シャ? どんな所かって、別にただ、紅茶かコーヒーを飲みに行くだけでしょう」
その答えに流誠は空を仰ぎたい気分になった。
この様子だと事が終わった後、ティーカは毒液の一つか二つは流誠に吐きかけてくるかもしれない。
別に悪いことする訳でもないのに。
そう思いながら、流誠は足を止めた。
ここが、小歌の言っていたお店だ。
そこに掲げられている看板を見て一気にやる気が失せたが、ここまで来たら覚悟を決めるしかない。
カランカラン
軽快なベルの音を鳴り響かせ、メイド喫茶”プリンセス・キュア”の扉は開かれた。
「お帰りなさいませ、ご主人様!」
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