33-6:剣士と相棒
33-6:剣士と相棒
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手に懐かしい感触がある。
もう二度と感じることが出来ないと思っていた感触が確かにここにある。
これは夢なんかじゃない。
大切な友達が作ってくれた確かな現実だ。
リリシアの声が聞こえる。
鳴恵の笑顔が見える。
津樹丸の力を感じる。
「僕は独りじゃなかったんだね」
玉露は自分に言い聞かせるように言った。
そんな事にも相棒はそれまでと何も変わらずに答えてくれた。
『相棒』
緑の刀身に浮かんだその文字を見て、玉露は力強く頷き、そして、津樹丸を構えて倒すべき敵を見据えた。
敵も玉露と同じ構えを持っている。
当然だ。
あの鉄鬼兵は玉露と津樹丸の全てをコピーしたのだから、その力は同等、いや性能で勝っている分鉄鬼兵の方が上だ。
「お前が僕をコピーしたときは、僕はまだ独りだった。本当に友達を、リリシアと鳴恵を信じきれていなかった。
でも、お前が津樹丸を壊してくれたから、僕は友達を信じることが出来るようになった。だから、あの時の僕のままだと思うなよ」
玉露が一歩前に出た。
所詮、玉露と同じ剣術と津樹丸以上の性能を持っているとしても敵はただそれだけの存在。
あいつにはリリシアも鳴恵も津樹丸もいない。
それだけの差がなんと心強いことだろうか。
「ねえ、津樹丸。鳴恵とリリシアは僕の料理を食べたら美味しいって言ってくれるかな?」
戦いに全く関係のない一言は、ずっと相棒に聞きたいと思っていた一言だ。
相棒はすぐには返事を返してこなかった。
やがて、考え抜いた末の言葉を見て、玉露は思わず自嘲してしまった。
彼は自らの刀身にこう書いたのだ。
『勇気』
それはつまり、勇気を持てということだろう。
全く、厳しい津樹丸はあの頃のまま何も変わっていない。
本当は背中を押してくれる一言が欲しかったというのに、それが分かっているはずの相棒はあえてその言葉を言わなかった。
だからこそ、玉露は津樹丸を相棒だと断言できる。
「そっか。そうだよね。これからはきっと津樹丸の力を借りないで生きていかないといけないときもあるだろうし、何時までも津樹丸に甘えてたら駄目だね」
自分を律し、玉露は相棒と約束した。
相棒は何も語らず静にその刀身を緑に光らせた。
それはとても温かい光だった。
そして、剣士は相棒と共に舞う。
一気に駆け、鉄鬼兵との距離を詰め、津樹丸を振りかざす。
その一振りで全ての違いが分かり、玉露は愕然とした。
握りしめている時から今までの津樹丸とは違うとは思っていたが、これほどまでの性能が上がっているとは思わなかったのだ。
しかし、それは当然である。
津樹丸は200年近く前の旧式MSデバイサーである。
それが最新鋭の技術を持って修復されたのだ。
性能など比べモノになるはずがない。
これが緑剣士とその相棒が織りなす真の戦いである。
緑の美しい一刀が桜色の世界で優雅に舞った。
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