33-5:蒼の鱗片
33-5:蒼の鱗片
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言ってやりたい事、聞きたい事、殴ってやりたい事は色々とあるが今は戦闘中であるため、とりあえず後回しにして戦況を確認する。
鳴恵が現れてくるまで、あれほど分の悪かった戦いが一気に好転しつつある。
鳴恵は、どんな魔法を使ったか知らないが玉露の相棒である津樹丸を修復し、敵の中で一番厄介であった召還魔法を有する鉄鬼兵を奇襲の一撃で葬った。
あれで彼女自身は魔法を使えないと言うのだから、何というか、流石、小夜子の娘である。
これで残る鉄鬼兵は四体。
そのうち手短にいる槍と鎌を持った鉄鬼兵と狼の鉄鬼兵にリリシアは狙いを定める。
狼の鉄鬼兵はともかく、後の二体はまだ敵の能力をコピーしていない。
厄介ではあるが、伊達に200年以上も生きてきている訳ではない。
同じ過ちは繰り返さない。
彼女はあらゆる次元の英知が集結された作られた人形であるのだから、出来ないことは限られている。
「しかし、鳴恵は雷の面白い使い方をするのだな、流石は元正義の戦士という所か」
小さく呟き、先程の友の行動を想い描く。
そして、心の中で小さく呪文を呟くと今まで蒼だったリリシアの瞳が金色に変わったのだ。
「Thunder BreaK」
両足の裏に雷を生み出し、鳴恵同様に神速の速度で小さな身体が飛び出した。
鳴恵は生身の人間であったため、自然とその移動速度に限界があったが、人形であるリリシアは鳴恵以上の速度で移動する事が出来る。
それは人の目では追うことが出来ず、そこにいる誰もが何が起きたのか理解できないでいた。
三体の鉄鬼兵は目の前にリリシアが突如として現れた事に驚き、すぐさま臨戦態勢を取るが、振り下ろされた鎌と槍と牙は雪色の防御壁の前に弾かれた。
これは白歌姫の魔法である。
見れば、リリシアの瞳は雪色に変わっている。
ここに来て、鉄鬼兵達は理解した。
この人形もまた自分たちと同じ能力を持っているのだと。
彼女も他人の能力をコピーする力を持っている。
そして、一つの魔法しかコピーできない自分たちとは違い、いくつもの多くの技をコピーする事が出来るのだと。
感情などインプットされていないはずの鉄鬼兵はこの時、確かに絶望というモノを知り、それが彼らが感じた最後の感情であった。
圧倒的な戦力差の前に立ちすくんだ戦士が生み出す隙を見逃すほどリリシアは甘くない。
再び、瞳の色を蒼に戻すと三体の狼を出現させ、戦意を喪失しつつある鉄鬼兵をそれぞれかみ砕いたのだった。
「あ~~、リリなんか最後の最後に大活躍して美味しい所持っていた~~。オレも色々と戦略考えていたのに」
少し放れた所から鳴恵が不平の声を上げた。
本当に悔しいらしく頬を膨らましていたりする。
「そうでもないぞ」
と言うものの、リリシアの顔は何故か勝ち誇っている。
その顔を見ていると余計に悔しくなったのか、さらに鳴恵の頬が膨れる。
「相手が愚か者で助かっただけだ。全く妾のはったりにあんなにも簡単に騙されるのだから、同じ人形とは言えもう少し知性があっても良いのではないのか」
リリシアは他人の魔法をコピーする能力を持っていない。
いや、探せば自分の中にそんな能力もまたあるかも知れないが、少なくともそんな姑息な魔法を使いたいとは思わない。
雷の発生など、基礎をある程度学んだ魔法使いなら誰だって出来ること。
防御壁の魔法だって実戦を生きていくためには学んでいて損はない。
後は、遊びで覚えた色彩を変化せせる魔法で瞳と防御壁の色を変えればいかにも、それっぽく見えるだけの話である。
もう少し技のデパートリーを見せねばならないと思っていたが、いとも簡単に黙れた鉄鬼兵と自分が同じ人形だと思うと自然とため息が漏れてくる。
だが、まだ終わりではない。
嘆くのはもう少し後だ。
リリシアは背後へ振り返り、そして、言い放った。
「さあ、残る鉄鬼兵は一体。玉露、妾は最初に言ったであろう。剣の鉄鬼兵は汝に任せると。ならば、妾との約束しかと果たしてみよ」
リリシアと鳴恵の見つめる先。
そこには相棒を力強く握りしめた剣士が悠然と立っていた。
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