33-1:友達
33-1:友達
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右腕に握りしめているのが、長年の苦楽を共にしてきた相棒ではない事にもはや恐怖はなかった。
今、剣士の右腕に握りしめてられているのは緑の刀身ではなく、友が作り出してくれた青の聖剣である。
玉露はかつて相棒にそうしていたように聖剣をそっと握りしめ、相棒と共に何度も何度も鍛錬を積み重ねてきた構えを取る。
「玉露、汝はあの剣を持つ鉄鬼兵を食い止めろ。残りは妾が始末する」
異論など認めないと言わんばかりの口調でリリシアが命令してきた。
敵は五体に対してこちらは二人。
その内四体を一人で引き受けると友は言ってきた。
駄目だと、友を案じて反論しようとしたが、玉露は友の提案に素直に頷いた。
かつて剣の鉄鬼兵と剣を交えたから分かる。
あの鉄鬼兵の技量は自分と同等である。
しかし、その手に持つ剣はあちらの方が格段に上である。
敵は強い。
冗談でも”僕は独りで十分だ”などとは言えない状況である。
「分かった。でも、リリシアも気をつけて。そして、もしもの時は僕の名を叫んで。僕は必ず、大切な友達を守るから」
「ふん。妾は一人で十分だ」
あえて玉露の口調を真似て冗談めいて言ってみた。
その言葉に玉露は目を丸くして、そして、さっきは言えなかったいつもの言葉を自然と言うことが出来た。
「なら、僕も一人で十分だ」
けしてそんな事はない。
これはただの言葉の応酬。
友と過ごす掛け替えのないただの一時である。
そして、人形と剣士は申し合わせた訳でもなく、その後に同じ言葉を紡いでいた。
「だが、妾は鳴恵と友でありたい」
「でも、僕は鳴恵と友達でいたい」
二人の顔から笑顔は消え、戦士の顔つきになり、共に駆けだした。
友を助け出すために邪魔な五体の人形を倒すために。
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一方、時を同じくして、七人の魔法使いの中において唯一、桜色の通路を逆送している者がいた。
彼女は拳に金色の絆を付け、右手に緑色の絆を握りしめて、雷の如く迷い無く雄々しく走っていた。
「待ってろよ。今、行くからな」
自分の選んだこの道が正しいなんて、絶対に思わない。
だけど、間違っているとも思わない。
次元と友を天秤にかけた。
どっちらかを守るためにどちらかを見捨てるなんて彼女には出来なかった。
でも、物事には順番がある。
次元と友を同時に助けるなんて、魔力もなく、ただの一般人である彼女には到底不可能な話であった。
だから、もう一度次元と友を天秤にかけたら、天秤は友の方へと傾いたのだ。
まず友を救い、そしてその後、次元を救う。
これが彼女が出した答えであり、道筋であった。
彼女は雷のように駆けている。
次元を守るために残された時間は長くない。
それ以上に早くあいつのいつも通りの顔を見てみたい。
そんな想いを胸に抱き、魔法使いではない彼女はその想いを魔法に返ることは出来ないけど、想いを原動力にまっすぐに走り続けた。
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