M-32:桜色の願い
M-32:桜色の願い
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目が覚めると現実のあたしは地面に倒れ伏せていた。
魔法天使の衣は下着が見えそうなぐらいに破けて、体中は傷だらけで、正直立ち上がるのだって辛い。
でも、それでもあたしは戦わないとならない。
私のために。
お兄ちゃんのために。
そして、彼女のためにも。
イリルを杖代わりにして体を支えて、何とか起き上がる。
「あら、まだ立ち上がりますの。そのまま大人しく寝ていれば、これ以上痛い目に合わなくても済みますし、あまりしつこいようですと、あなたも殺しますわよ」
シリアル・アリスはそう言って、桜色の指輪をあたしに向けた。
桜色の想いが集まり、魔法に代わり、桜色の三日月を作り出す。
「あなたは、そこまでして、近衛蘭を蘇らしたいの?」
シリアル・アリスの目が大きく見開かれたが、彼女は小さく笑うと迷い無く宣言した。
「ええ。それが私の唯一の願いですわ。そのために、蘭さんが生き返るのなら、私は何だってしますわ。”アトロポス”である、久我誠流だって殺して見せますわ」
桜色の願いが想いに変わり、魔法に変わり、桜色の三日月が一段と大きくなった。
あたしはシリアル・アリスみたいに小さく笑うと、首を横に振った。
「桜愛理子。それは絶対に違う。
あたしはあなたじゃないけど、あたしとあなたは共に実の兄を愛してしまった女性だから、分かるよ。
あなたの願いは近衛蘭を蘇らせる事じゃない。あたしの願いだって、お兄ちゃんを守り抜きたい事じゃない。
そんな事は、あたし達の本当の想いなんかじゃない!」
あたしの想いは弾けた。
この想いはあたしの想いだけじゃない。
桜色の想い出の中で見てきた一人の女性。
彼女は純情なまでに一人の男を愛し続けていた。
どんな困難だって彼女は彼を想うことで乗り越えてきた姿をあたしはずっと見てきた。
だから、言える。
今のシリアル・アリスはあの頃の彼女じゃないと。
サクラ・アリスという狂気の桜色に染め上げられた偽りの桜愛理子である。
あたしは、久我定香は、彼女を、桜愛理子を救い出してあげたい。
彼女から狂気の色を取り除いてあげたい。
だって、彼女の願いは結局、あたしと一緒なんだから。
「あなたの本当の想いは、そして、あたしの本当の願いは、ただ一つ、すごく簡単な事よ。
あたしとあなたは、ただ血の繋がった兄を愛したくて、そして、愛されたい。
たったそれだけの事よ!!」
あたしの体を紫色の閃光が包み込み、閃光はあたしを生まれ変わらせる繭となり、あたしは再び魔法天使に生まれ変わった。
呪文を唱えることなく魔法が使えるほど、あたしの想いは弾けまくっている。
体は傷だらけで思うように動かないけど、そんなのは、全部この想いでカバーしてやるんだから。
でも、今のパラレル・ティーカには呪文は必要なくても、魔法天使には決め台詞が必要なんだ。
「弾ける想いを届けたい。魔法天使 パラレル・ティーカ、ただいま爆発、よ」
イリルの先端に想いが集まり紫色の星が形成される。
でも、それは今までの魔法とは違う、彼女の過去を知ったあたしだからこそ、使える二人の想いを乗せた魔法だ。
「ちょ、定香さん。この魔法、無茶です。同時に別種の想いを乗せ合わせて魔法を作るなんて、こんな不安定過ぎる魔法、何時暴発するか分かりませんよ。危険過ぎます」
イリルが必死に忠告してくるけど、あたしはいつもの如く無視。
あたしの想いだけじゃ、悔しいけどシリアル・アリスには勝てない。
そのことは既に実証済みだし。
でも、勝てないから諦めるような女なら、あたしはお兄ちゃんを愛していない。
逃げ出さなかったから、あたしは今、ここにいるんだし、困難って言うのは、乗り越えるためにあるの。
「愛理子。あなたの秘めた想いも、あたしが弾けさせて、咲き乱らせてあげるわ」
そう言って、あたしは紫色の中に少しながら桜色が混ざり合った星を魔法で作り出した。
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