32-4:白銀の朱天使
32-4:白銀の朱天使
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次元監視者―来名秋生―の手が、次元犯罪者―久我流誠―の手を確かに捉えた。
「ライナさん!」
「流誠っ」
白歌姫と紫の妖精の声が同時に上がるが、戦いはこれで終わりではない。
久我流誠の目はまだ死んでいないのだ。
彼に触れている手を通じて魔力がプロミス・オブ・スマイルに流れ込むのを感じる。
前の秋生なら”愚かな”と侮蔑した事だろう。
だが、今の秋生は”やはりな”と納得した。
流誠と秋生を包み込んでいる紫の閃光。
ソレが弾けて、内部へ爆裂してきたのだ。
幾重の紫の光弾が、二人の魔法使いめがけて降り注ぐ。
外にいる二人の声は、爆音に掻き消されてもはや聞こえない。
紫騎士は、なんとしてでも、愛した妖精を守り抜く。
そのためにはその身を犠牲にすることも躊躇わない。
彼女が語ってくれた言葉を秋生は思い出した。
天使の背中から生えた白銀の炎の翼が秋生を、そして流誠を包み込んで、紫の閃光を一身で受け止めた。
けっして紫の閃光の破壊力が弱かった訳ではないのに、白銀の翼には傷も焦げ目も付いていない。
「なあ、久我流誠。お主は一人の騎士の物語を知っているか」
あの日、彼女が語ってくれた言葉を今度は秋生が語っていた。
「あるところに、一人の美しい女性を守ると誓った騎士がいたそうだ。騎士は彼女を守り抜くために戦い、そして、最後には敗れた。何故だと思う?」
秋生の問いかけに、流誠は戸惑った。
その物語は自分の過去を否応なく思い出させるから。
「それは、騎士が、姫以外のモノに目がいってしまっていたから。
常識、現実、未来、大切な人以外に目がいってしまって、本当に、本当に大切だった彼女を守りきる勇気を持てなかったからだ。
そんな騎士は姫を守る主人公失格だよ」
「違うな。騎士は周りを見えていなかったのだ。
確かに、騎士は主人公であったのかもしれない。
しかし、そこに拘っていて、自分だけが物語の主人公だと思いこんで、自分の手だけで片づけようとしていた故に、騎士は彼女を守りきれなかった。
そう彼女は言っていたよ」
秋生が小さく笑った。
それは彼女の特徴であるいたずら猫のようなあの笑顔に似てみえた。
「久我流誠。この言葉は、小職の言葉ではなく、彼女の言葉であるが、お主にこそ相応しいと感じたよ。だから、言わせてもらおう」
拳をきつく握りしめる。
彼女は秋生にキスをすることで秋生に教えてくれたが、男にキスをする趣味など朱天使は毛頭持っていない。
だから、これは少々荒っぽいがその代わりだ。
「一度深呼吸して世界をよく見てみろ!!」
朱天使の想い、そして彼女の想いが乗った拳が流誠の頬を殴りつけた。
不様に地面に倒れ込む紫騎士。
脳が激しく揺れ、すぐには起きあがれなかった。
そして、その一瞬を朱天使は逃しはしなかった。
コイン型MSデバイサーの標準を流誠の顔に向けると、彼を死に追いやる火球を躊躇うことなく放った。
「お前は一人じゃないから、もっと回りをよく見てみろ。きっとお前を助けてくれる奴がいるはずだ」
そして、白銀の炎が流誠を飲み込んだ。
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