32-3:掟が覆るとき
32-3:掟が覆るとき
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『lord Purple Star』
プロミス・オブ・スマイルに呪文が刻まれる。
狙いをまるで彼女の髪を思い出させるほどの白銀に染め上げた朱天使に定める。
だが、そんな天使の翼を見ても、もう彼女のいたずら猫のような笑顔は浮かんでこなかった。
『Purple Star Are Go!』
プロミス・オブ・スマイルから紫の閃光が放たれる。
これは威嚇弾である。
出力を三分の一に抑え、残りの魔力は今だプロミス・オブ・スマイルの中に貯め込む。
紫騎士の弱点は、使う魔法が強力であるが故に、魔法の発動までに時間を要する事である。
流誠自身も、これまで何度も魔法の発動時間を短縮しようと努力してきたが、それでも秋生や玉露ほど短くすることは出来なかった。
だから、別の方法を考えたのだ。
魔法の発動までに時間が掛かるのなら、逆に時間を掛け、代わりに一度の発動で数度の魔法を使えるようになれば良いのだと。
紫色の魔法弾が秋生を飲み込むほど近くに迫り来る。
秋生は小さく呪文を唱えると、その姿は刹那の時間も無く、消え失せた。
これまでに何度も見てきた朱天使の高速移動。
目で追うことが出来ない神速への対応策もある。
『Purple Cyclone』
紫の閃光が流誠を中心にして円周上に包み込んだ。
小歌の魔法をまねして作った防護陣である。
次元監視者である秋生は流誠に触れることは出来ない。
そのため秋生が移動してくるとすれば流誠からある程度離れた場所である。
何処に現れるか分からないが、現れた瞬間に、この円周上の紫の閃光を外周へ爆発させ、次の魔法を唱える暇を与えず秋生を攻撃するのが流誠のプランであった。
しかし、彼は失念していた。
いや、ティーカを守ることに固執していた彼は、次元監視者という存在についてあまりにも無知であった。
次元監視者は、その次元の住民に触れてはならない。
これは次元監視者の絶対の掟である。
そう、次元監視者は、その次元の住民に触れてはならないのだ。
そして、ここはサクラ・アリスの次元である。
つまり、紫騎士、久我流誠はこの次元の住民ではないのだ。
紫騎士に朱天使が触れること。
そこにもはや、次元監視者の掟は存在しない。
「えっ」
秋生が姿を現した。
そこは流誠の眼前。
紫の閃光の内側であった。
秋生の腕が流誠の左腕を、プロミス・オブ・スマイルを握りしめている左腕を確かに掴んだ。
「捉えたぞ、久我流誠」
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