M-28:許されぬ恋
M-28:許されぬ恋
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彼女は走っていた。
街の桜並木の中を走ってきた。
桜の樹はまさに満開だったけど、あたしにはそんな桜よりも彼女の方が美しく咲き乱れているように見えて仕方なかった。
「あたし、少しだけ思い上がっていたかな」
「どうしたんですか、定香さん。そんな悟りきったような顔しちゃいまして」
「うん。悔しいけどさ、あたしなんでシリアル・アリスに負けたか分かっちゃった。
彼女はきっとこれから蘭って人に全てを話す。
そして話した上で、自分の想いをちゃんと彼にぶつけるんだと思う」
「でも、それって定香さんも一緒じゃないですか?」
「ううん、違うよ。桜愛理子は、前にあたしに言ったわ。
想いは言葉に出してちゃんと伝えないと真実じゃないって。
その通りだよね。分かっていたけど、あたしはその事からずっと逃げてた。あたしがお兄ちゃんの妹だって理由を言い訳にしてずっと逃げてた。
それはきっと最初からお兄ちゃんと分かって恋したあたしと知らずに恋した愛理子との差なんだね」
彼女が立ち止まった。
その先に彼がいた。
彼はやさしく彼女に笑いかけた。
たっとそれだけの事で彼女の頬は薄桜色に染まっていく。
それは、恋する少女の顔だ。
「イリル。あたし、決めたわ」
「何をですかって? なんか聞かずとも答えは分かっちゃいますけど」
「あたし、この戦いが終わったら、絶対お兄ちゃんに告白する。
彼女が出来て、あたしに出来ない訳がない。もしかしたらふられるかも知れない。
もう、今までみたいな兄妹じゃいられないかもしれない。
でも、でも、それでも、やっぱりあたしはお兄ちゃんが大好きなんだもん。
あたしは、弾ける想いを届ける、魔法天使パラレル・ティーカ。
あたしの想いは、弾けてなんぼのものなのよ!!」
あたしの前では彼女が真実を語り続けていく。
その声は僅かに震え、その瞳には小さく涙が溜まっていたけど、その顔はとても幸せそうだった。
この恋物語の結末が、二人が結ばれるハッピーエンドであっても、二人は結ばれないバットエンドであっても、彼女は後悔しないだろうと確信させる強さがそこにはあった。
でも、あたしは知っていたいた。この物語の結末は、悲劇であると。
「蘭さん、わたしはあなたが好きです。
例え、あなたがわたしの実の兄であろうと、この想いは偽れません。
この想いはずっとわたしの中で咲き乱れているのです。
だから、蘭さん、いえ、わたしのお兄様。
わたしはあなたの事が大好きです」
彼女がついに想いを言葉に乗せ、彼に伝えた。
でも、まるでその想いが引き金であったかのように不意に、なんの前触れもなく世界は桜色の光に包まれてしまったんだ。
「な、なに? 一体、何がどうしたの?」
「これは、次元移動?
まさか、そんな事は……っ。何が起きているんだ!!」
あたし達は突然の閃光に目を眩ませた。
そして、桜色の閃光が消え、あたしの視界が再び光を正常に認識出来るようになったとき、あたしは言葉を無くし、思わず口元を両手で隠してしまった。
「なに、これ………」
あたしは目の前の事が信じられなかった。
この世界は桜愛理子の想い出。
つまり、この世界の出来事はすべて真実だ。
それなら、それなら、どうして、今、あたしの目の前に、桜愛理子が二人もいるの………?
つづく
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