5-1:イン・ザ・マウンテン
5-1:イン・ザ・マウンテン
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『ごめん、修行してくる』
派生型クレデターに負けた翌日、流誠は急にそんなことを言い出した。
寝ぼけ眼のティーカは特に深く考えず、彼の肩に乗り、電車に揺られ、とある山奥へとやって来た。
それが、四日前の出来事だ。
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玉露は数日前から、違和感を感じていた。
闇法師とは違うが、どことなく似ている。
まるで、緑茶と烏龍茶との違いみたいなその感覚が気になって仕方なかった。
そして、津樹丸と相談した結果、この違和感の正体を確かめることにしたのだ。
気配の場所は、とある山奥の中。
人気のない其処に辿り着いた玉露が見つけたのは、一人の男と一匹の妖精だった。
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流誠が派生型クレデターに勝てなかった理由は、極めて単純だ。
彼の魔法、『Purple Star』は威力こそ強大だが、呪文詠唱に時間がかかる。
そこをつかれれば、勝ち目がない。
一秒でも、コンマ一秒でも早く、呪文詠唱を終えるために、この四日間山ごもりを続けてきた。
特訓の成果がなかったわけではない。
が、まだ遅い。
あの日、流誠とティーカを助けてくれた剣士のごとく、流れるような呪文詠唱を行えるようにならなければ、ティーカのナイトになんてなれはしない。
だから、もっと早く、もっと強く、もっと前に。
「シャッ!」
敵襲だ。
殺気だったティーカの声が聞こえた瞬間、流誠も紫のカードを手に臨戦態勢に入る。
しかし、強襲者の動きはそれよりも早かった。
鋭く光を反射させる緑の刀身が、流誠の首元に突きつけられる。
「あなたは……」
強襲者はあの日、派生型クレデターを圧倒的剣技で倒した剣士だった。
「何者だ? ここで何をやっている?」
中性な外見によく似合っているハスキーボイスで緑剣士が尋ねてきた。
その瞳にはわずかながら、殺意が込められており、答え次第ではその瞬間、流誠の首をはねとばすと宣言していた。
剣士の速さはよく知っている。
この至近距離では、どう足掻いても流誠に勝ち目はない。
剣士の接近を気がつけなかった紫騎士は、まだまだ未熟者ということだ。
「ボクは久我流誠。職業は、非常勤の文学教師で、ここでやっているのは、魔法の修行かな」
一週間にも満たない修行では、紫騎士と緑剣士との溝は埋まりはしない。
このままでは、またしても守ると誓った大切な人を守れず傷付けてしまう。
そんな現実に自嘲的な笑みを浮かべながら、素直に答えるのだった。
紫と緑、二つの色が今、少しずつ交わり始める。
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