4-3:僕は独りで十分だから
4-3:僕は独りで十分だから
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『確認』
月のない夜空の元、月島玉露は津樹丸を手に立っていた。
津樹丸の刀身に浮かぶ文字は闇法師の存在を見つけ出した証だ。
この二週間通ってきた学校。
その中から、恐怖の悲鳴が木霊した瞬間、剣士は駆けた。
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まるで人の影が立体化してしまったかのような悪しき存在。
それが闇法師だ。
黒い存在が、夜遅くまで残っていた生徒会役員を取り囲んでいる。
生徒達の顔は皆、恐怖に歪み、足は小刻みに震え、皆互いの肩を合わせるように寄り集まっていた。
闇法師の手が、生徒会長の頬を撫でる。
彼は、あまりの恐怖で声が引きつり、悲鳴が出ない。
ふいに闇法師の手が生徒会長の頬の中に吸い込まれていく。
人知を超えた出来事に、生徒会長は意識を保つだけでもう精一杯だった。
その行為が、闇法師にとって、人を喰う事を意味しているなど、知るよしもない。
「っ破!」
一閃の咆吼ののち、闇法師の絶頂が木霊した。
見れば、生徒会長と闇法師の間に一刀、緑の光を放つ刀があった。
緑剣士、月島玉露とその相棒の津樹丸だ。
剣士は生徒達の安否を確認しない。
月島の一族にとって大切なのは、人を守ることではない。
闇法師を殲滅することだ。
人を救うのは、あくまでその結果に過ぎない。
剣士は、津樹丸を振る。
闇法師を斬る。
断末魔が響き渡る。
勝負は5秒も掛からず、剣士はすべての闇法師を斬り殺した。
自分たちを囲んでいた異形が消えたことで、生徒達は金縛りから解放されたようだ。
自分たちが動けると分かると、命の恩人である玉露に礼も言わず一目散に逃げ出していく。
『無礼者』
そんな生徒達を津樹丸は叱咤するが、玉露にはどうだって良いことだった。
月島の一族にとって、他人から礼を言われることなど何の価値もないことだから。
それよりも、今、大切なことは、まだ戦いは終わっていないと言うことだった。
「やっぱ、ツッキーが月島の狩人だったのかよ。名前見た時からそーじゃねえかと思っていたんだよな」
誰もいなくなった廊下に足音が響く。
コツン、コツンと規則的に鳴り響くその音に玉露も応える。
「僕も修助が黒幕じゃないかと睨んでたよ。こんな僕に話しかけてくるなんて、普通じゃないからね」
足音が止まる。
玉露の前に現れたのは、いつも気軽に話しかけてきた修助のなれの果てだった。
姿は修助そのものだが、その背中からまるで背後霊かのように闇法師がついている。
彼はすでに闇法師に喰われ、寄生された存在なのだ。
「なあ、ツッキー。俺みたいに闇法師の仲間にならないか?」
「つまらない冗談だね」
「そうでもないぞ。俺もな、前はクラスで浮いた存在で一人だったんだよ。孤独がどんなに辛いか俺はよく知っている。お前も、孤独なんだろう。寂しいんだろう。一人なんて嫌なんだろう。なあ、仲間になれよ。闇法師の仲間になれば、みんなが俺たちの………」
修助の言葉は最後まで続かなかった。
長々と喋る彼に付き合う義理は玉露にはない。
目にも止まらぬ突進で、津樹丸を修助の胸に突き刺した。
「月島っ。貴様……」
「悪かったね、期待を裏切って。僕は孤独だ。でも、寂しくもないし、嫌でもないし、辛くもないんだよ」
そう言って、玉露は津樹丸を振り上げた。
修助の返り血を学生服に浴びるが、この服を使うことはもうないからどうでも良い。
「津樹丸さえいてくれれば………僕は独りで十分だから」
そして、一つの仕事が終わった。
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封鎖された学園を眺めても玉露には何の哀愁も浮かばなかった。
思い出すのは、この学園の屋上で津樹丸と過ごした時間ぐらいの物だ。別になんとも思わない。
「さあ、行こうか。津樹丸」
そして、緑剣士は歩き出す。
一刀の相棒だけを頼りに、独り歩き出す。
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