表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/246

4-3:僕は独りで十分だから

4-3:僕は独りで十分だから


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


『確認』


 月のない夜空の元、月島玉露は津樹丸を手に立っていた。

 津樹丸の刀身に浮かぶ文字は闇法師の存在を見つけ出した証だ。

 この二週間通ってきた学校。

 その中から、恐怖の悲鳴が木霊した瞬間、剣士は駆けた。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 まるで人の影が立体化してしまったかのような悪しき存在。

 それが闇法師だ。

 黒い存在が、夜遅くまで残っていた生徒会役員を取り囲んでいる。

 生徒達の顔は皆、恐怖に歪み、足は小刻みに震え、皆互いの肩を合わせるように寄り集まっていた。

 

 闇法師の手が、生徒会長の頬を撫でる。

 

 彼は、あまりの恐怖で声が引きつり、悲鳴が出ない。

 ふいに闇法師の手が生徒会長の頬の中に吸い込まれていく。

 人知を超えた出来事に、生徒会長は意識を保つだけでもう精一杯だった。

 その行為が、闇法師にとって、人を喰う事を意味しているなど、知るよしもない。

 

「っ破!」

 

 一閃の咆吼ののち、闇法師の絶頂が木霊した。

 見れば、生徒会長と闇法師の間に一刀、緑の光を放つ刀があった。

 緑剣士、月島玉露とその相棒の津樹丸だ。

 剣士は生徒達の安否を確認しない。

 月島の一族にとって大切なのは、人を守ることではない。

 闇法師を殲滅することだ。

 人を救うのは、あくまでその結果に過ぎない。

 

 剣士は、津樹丸を振る。

 闇法師を斬る。

 断末魔が響き渡る。


 勝負は5秒も掛からず、剣士はすべての闇法師を斬り殺した。

 自分たちを囲んでいた異形が消えたことで、生徒達は金縛りから解放されたようだ。

 自分たちが動けると分かると、命の恩人である玉露に礼も言わず一目散に逃げ出していく。


『無礼者』


 そんな生徒達を津樹丸は叱咤するが、玉露にはどうだって良いことだった。

 月島の一族にとって、他人から礼を言われることなど何の価値もないことだから。

 それよりも、今、大切なことは、まだ戦いは終わっていないと言うことだった。

「やっぱ、ツッキーが月島の狩人だったのかよ。名前見た時からそーじゃねえかと思っていたんだよな」

 誰もいなくなった廊下に足音が響く。

 コツン、コツンと規則的に鳴り響くその音に玉露も応える。

「僕も修助が黒幕じゃないかと睨んでたよ。こんな僕に話しかけてくるなんて、普通じゃないからね」

 足音が止まる。

 玉露の前に現れたのは、いつも気軽に話しかけてきた修助のなれの果てだった。

 姿は修助そのものだが、その背中からまるで背後霊かのように闇法師がついている。

 彼はすでに闇法師に喰われ、寄生された存在なのだ。

「なあ、ツッキー。俺みたいに闇法師の仲間にならないか?」

「つまらない冗談だね」

「そうでもないぞ。俺もな、前はクラスで浮いた存在で一人だったんだよ。孤独がどんなに辛いか俺はよく知っている。お前も、孤独なんだろう。寂しいんだろう。一人なんて嫌なんだろう。なあ、仲間になれよ。闇法師の仲間になれば、みんなが俺たちの………」

 修助の言葉は最後まで続かなかった。

 長々と喋る彼に付き合う義理は玉露にはない。

 目にも止まらぬ突進で、津樹丸を修助の胸に突き刺した。

「月島っ。貴様……」

「悪かったね、期待を裏切って。僕は孤独だ。でも、寂しくもないし、嫌でもないし、辛くもないんだよ」

 そう言って、玉露は津樹丸を振り上げた。

 修助の返り血を学生服に浴びるが、この服を使うことはもうないからどうでも良い。

「津樹丸さえいてくれれば………僕は独りで十分だから」

 そして、一つの仕事が終わった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 封鎖された学園を眺めても玉露には何の哀愁も浮かばなかった。

 思い出すのは、この学園の屋上で津樹丸と過ごした時間ぐらいの物だ。別になんとも思わない。

「さあ、行こうか。津樹丸」

 そして、緑剣士は歩き出す。

 一刀の相棒だけを頼りに、独り歩き出す。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ