27-1:狂乱の部屋
27-1:狂乱の部屋
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「ああ、乱さんって悪人なんだ。こう言うのって不法侵入って言うんだよ」
玄関前に立つゴスロリ姿の小歌が、ドアノブに専用工具を差し込んでいる乱を指さして笑っている。
ここは月島玉露の家である。
何故、乱が乱がこのようなことをしているかというと、リリシアは迷わずここへやって来て、中に玉露がいないことを確認すると、有無を言わせない瞳で乱を睨み、顎でドアノブを差したのだった。
それだけで、リリシアの意思は全て乱に伝わった。
元泥棒家業に手を出していた乱にしてみれば、この手の仕事はさほど難しい作業ではない。
が、気がつけばリリシアに良いように使われている自分に自嘲しつつ、乱は錠を外すべく作業に取りかかった。
ちなみに、小歌は見張りをすることもなく、興味津々な瞳で乱の作業を一心不乱に見ている。
「開いたぞ」
ガッチャという音が聞こえ、閉ざされていた扉が開かれた。
リリシアは急いで、ドアを開け、中へ入るが、やはりそこに玉露はいなかった。
これは予想通り。
しかし、予想外だったのは、その内装であった。
「何これ………」
小歌が思わず両手を口にあて、絶句する。
「よほど苦しんでいたという事か」
乱が床に散らばったガラス片を取り上げ呟いた。
玉露の部屋は何と形容すればいのだろうか。
まるでここで戦争があったかのように壊れ、荒れ、砕かれていた。
とても人が住むような環境ではない。
この部屋を見ているだけで、本来この部屋にあった恐怖の残り香が胸を締め付け、吐き気を催してくる。
そんな中、リリシアは傷だらけの人形を見つけた。
リリシアの体ぐらいはありそうな大きな人形は見覚えがある。
鳴恵と玉露と共に回った秋祭りで、玉露が輪投げで獲得した景品だった。
柔らかそうだった毛並みは、垂れ落ち、よほど強い力で握りしめたのだろう。
人形の至る所には玉露の手形が残っていた。
そんな人形を優しく撫で、リリシアは心の中で友の名を呟いた。
「どうするの、リリシアちゃん。もう、ここには玉露君いないみたいだし。
正直、小歌、ここ気味悪くて、気持ち悪いな」
「確かに、これだけ荒れていれば、どれが手がかりであるか識別するのも時間がかかると私も思う。
ここは、別の線から玉露という剣士を追っていた方が得策だと考えるが?」
小歌と乱が進言してくる。
その通りだとリリシアも思ったが、しかし、彼女が動くことが出来なかった。
鋭い瞳で小歌と乱を睨み付ける。
小歌は訳が分からないという感じで首を傾げ、乱は小さく肩をすくめるだけだった。
あの小歌という奴は実戦経験が少なく使い物にならないが、乱の方は少しは使えると言うことか。
リリシアの青の瞳に呪文が刻まれる。
魔法が発動し、空虚から突如、水で形成された狼が出現した。
狼は主の意思に従い、目標めがけて突撃した。
この部屋に入った瞬間から感じている視線と、体を嘗め回されるのと同様の嫌悪感。
この部屋には悪魔が潜んでいる。
リリシアは先制攻撃で悪魔に打って出るが、彼女の生み出した狼は悪魔の刃に両断されたのだった。
「ひどいな、お前。この体を探してここまで来たんだろう。なのに、いきなり攻撃なんて、本当に友達なのかよ。
なあ、リリシア・イオ・リオン。無口なお人形さんよ」
闇から姿を現した悪魔の姿を見て、リリシアは絶句せざるを得なかった。
小歌も乱も目の前の状況が瞬時には理解できず、反応が遅れてしまう。
闇から現れた闇緑色の悪魔、その姿は玉露と瓜二つであったからだ。
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