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26-2:敗者の物語

26-2:敗者の物語


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 自分が犯した失態を取り返すべく秋生は前に進む。

 意識を失っている間に魔力は復活している。

 後は、行動を起こし、この次元を守るために戦うしかないのだ。

「何のまねだ。小職は急いでいる。邪魔をするな」

「ごめんなさいね。でも、今のあなたの顔ってもの凄く余裕がなさそうなの。

 藍の前の彼氏もね、そんな顔して、藍を守ってくれるって約束してくれたわ。

 ねえ、その人、どうなったと思う?」

 秋生の前に銀髪の女性が立ちはだかり、不思議な問いかけをしてきた。

 その言葉の真意が分からず、また状況は一刻を争っているのだ。

 秋生は女性の問いに答えなかった。

「女。もう一度だけ言う。邪魔だ。退かなければ、力づくでお主を退かす」

「怖い顔ね。

 藍の前の彼氏はね、今のあなたみたいに、自分の使命しか見えていなかった。

 まるで騎士のように藍を守って戦ってくれたけど、結局ね、彼は負けてしまったわ」

 秋生の脅しなどに怯むことなく、銀髪の女性は語る。


 彼女を守ると誓い、しかし、その誓いを果たせなかった彼女の騎士の事を。


「彼はきっと自分の使命に囚われすぎていたのだと、藍は今になって思うの。

 あの時は、一人で藍のことを守ってくれる彼が格好良かったし、すごく好きだったわ。

 でも、終わって知ったの。

 藍や彼はあの物語の主人公だったわ。

 でも、きっとそこに拘りすぎていたのだわ」

「女、何が言いたいのだ?」

「あなたはあの時の、藍や彼と一緒。回りが全然見えてない。

 自分だけが物語の主人公だと思いこんで、自分の手だけで片づけようとしている。

 でもね、一度深呼吸して世界をよく見てみて。

 藍はあなたの目の前にいるわ。

 藍はあなたの物語のヒロインじゃないかもしれない。でも、こうしてあなたと出会えて、あなたと話をしたって事はあなたの物語に脇役として関われたってことは間違いない。

 それも、こうして説教しているって事は、かなり美味しい脇役ね。

 短い時間で強い印象を残せる」

「女、話が逸れてないか?」

「あ、本当だ。ツッコミありがとう。

 藍ってどうも話が逸れる癖があるらしくてね、前の彼氏にも良く突っ込まれたわ。

 それでね、藍が何を言いたかったというと、あなたは一人じゃないから、もっと回りをよく見てみなさい。

 きっとあなたを助けてくれる誰から居るはずよ」

 銀髪の女性はそれが真実だと疑っていないのだろう。

 一歩前に踏み出し、そしてまた一歩、秋生に近づいてきた。

 この次元の者が秋生に触れようと近づいてきている。


 だが、秋生は逃げなかった。


 正確には、逃げられなかった。

 秋生を見つめる銀髪の女性の強い瞳と、先程の言葉が秋生をとらえて放さない。


 そして、銀髪の女性が秋生の目の前に立った。

 互いの息が感じられそうなほどに近くに白銀の髪を持つ女性と、灼熱の髪を持つ男性が立っている。

 その構図はとてもこの世の情景とは思えぬほど世離れした神秘性を持っていた。


「だから、もっと落ち着きなさい」


 白銀の唇が灼熱の唇に重ね合った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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