4-2:一人と一刀
4-2:一人と一刀
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遥か戦国の時代。
月島の一族に五本の剣が舞い降りてきた。
その剣は『闇法師』を斬ることの出来る唯一無二の武器。
『清斬』と名付けられた五つの刀。
その内の一本が、月島玉露の相棒、津樹丸だ。
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昼休みが始まるチャイムが鳴ると教室が一斉に騒がしくなった。
月島玉露は、例によって呼び止めようとする修助を無視して早々と教室を後にする。
学食へ向かう生徒達の波に逆走して、玉露が目指すのはこの学校の屋上だった。
彼女がこの学校で潜入操作を始めた当初は、いわゆる不良グループが占拠していた其処を玉露が力で奪い取り、今では玉露専用の空間として誰も近寄らない。
「ごめんね、津樹丸。窮屈だったでしょう?」
屋上にたどり着くなり、玉露は竹刀袋の紐を解き、中から津樹丸を解放した。
さらに津樹丸を鞘から抜き、壁に立てかけ、自分もそのすぐ横に腰掛ける。
「学校って言うのは、なんか肩がこるね」
青空に向かって背筋を伸ばしながら、玉露は津樹丸に話しかける。
『修行不足』
津樹丸がその刀身に緑の文字を浮かび上がらせた。
「相変わらず、津樹丸は手厳しいね」
そう言いながら玉露は鞄から手作りのお弁当を取り出した。
生まれたその時から、修行に明け暮れていた玉露の数少ない楽しみ。
それはこうして、津樹丸と話している事と、料理をしている時だった。
闇法師を斬るためには清斬との同調は高い方が良いと月島の一族は、長い歴史の中で学んでいた。
だから、津樹丸とのおしゃべりを咎められることは少なかった。
津樹丸がずっとそばにいてくれたから、あれだけ辛かった月島の修行も逃げ出さずにやり遂げることが出来たのだ。
料理の方は、完全な趣味だ。剣士として、偏った栄養をとるわけには行かないと言う名目はあるものの、玉露にとって料理を作ることは純粋に楽しいと思える事だった。
唯一の不満は、この料理を津樹丸には食べれもらえ無いという事だが。
「動くとしたら、今夜辺りかな」
アスパラのベーコン巻きを頬張りながら玉露は空を見上げる。
『新月』
津樹丸が刻んだ通り今宵は新月。
この学園で闇法師の気配を感じてから早二週間。
きっと、今日がこの学園での最後の一日になるだろうと、玉露は確信した。
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