M-21:第六話
M-21:第六話
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あたしは木で出来たカエルの置物を手にとって想いにふけていた。
このカエルの置物はあたしがまだ小学生だった頃お兄ちゃんと一緒に家族旅行に行ったときに買ったの。
木彫りで背びれを、付属の棒で撫でると本当にカエルが鳴いているかのような音がして、お兄ちゃんと一緒に笑い合ったのを良く覚えている。
あの頃の私は何処にでもいる普通の女の子だった。
お兄ちゃんが大好きで何処に行くのもいつもお兄ちゃんの後ろをついて回っていた。
それが何時からだろう?
お兄ちゃんが大好きって気持ちが、ただの大好きじゃなくて、特別な大好きになってしまったのは。
「ねえ、定香はお兄ちゃんの事、大好きだよ」
膝の上に置いたカエルの置物をゲコゲコって鳴らしながら、あたしは深く息を吸い込んだ。
「だから、絶対にあたしが、お兄ちゃんを守ってみせるよ」
あたしの弾ける想いを言葉に乗せ、あたしは、魔法天使パラレル・ティーカとして戦う道を選び取った。
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「珍しいですね。定香さんから自分を誘ってくれるなんて。やっぱり、あのシリアル・アリスの事が気になるのですか?」
昼 下がりの街中をあたしは魔法の杖イリル片手に歩いていた。
今日は平日だから人通りもそんなに多くない。
持って歩くにはかなり邪魔なイリルを手にしているあたしには好都合だけど、真っ昼間からこんなコスプレめいた杖を持っているとそれは目立ってしょうがない。
でも、他人になんて見られていようと今のあたしには関係のないこと。
あたしはもう、覚悟を決めたんだ。
「もちろん。彼女は言ったわ。あたしのお兄ちゃんを殺すって。
そして、本当にお兄ちゃんを攻撃してきた。
許さない。
あたしはお兄ちゃんが大好き。
お兄ちゃんを愛している。
だから、あたしは戦うの。魔法天使パラレル・ティーカはお兄ちゃんを守るの!!」
そう宣言して、あたしはイリルを思いの限り地面に叩き付けた。
あたしの弾ける想いは魔力に代わり、イリルを伝わり世界に魔法として具現化する。
弾けそうな想いが強ければ強いほど魔法はより協力になるって前にイリルが教えてくれた。
それなら、きっと今のあたしはどんな魔法だって使うことが出来る。
今のあたしは、お兄ちゃんを守りたい想い、桜愛理子を許せない想い、そしていつも心に大切に閉まっているお兄ちゃんへの恋心で今にも体が弾けてしまいそうなんだから。
「っつったたた。定香さん、お願いですか魔法を使うときはあらかじめ一言……………
って、定香さん、あなたどんな魔法使って居るんですか!!!」
相も変わらず、イリルがあたしの手の中で叫いている。
そんなイリルいつもごとく疎ましく思いながら、あたしは再び歩き始めた。
あたしとイリル、そして彼女を除いたすべてが止まった世界の中を。
「何って、見て分かるでしょう。時間を止めたのよ。
こうすれば、あたしに戦う意志があることを桜愛理子にも伝えられるし、いざ戦いになっても邪魔は入らないし、まさに一石二鳥でしょう」
「一石二鳥って。定香さん、時間を止めたんですよ、時間を。
なにしれっと次元重大犯罪級の魔法使っているですか?
ああ、えらいこっちゃ、えらいこっちゃ。こんなの上層部にばれたら、自分の降格どころか下手した上層部にまで迷惑が」
「あんたのサラリーマン生活なんてあたしとお兄ちゃんの恋には関係ない。
それよりも来たわよ」
うるさいイリルの不安をばっさりと切り捨て、あたしは前を見据えた。
そこ、あたしが倒すべき敵がやって来たからだ。
「やっと来たわね。桜愛理子」
「あなたは、時間を止めるなんて………また無茶なことをなさいますのね。ここまでしてあの久我誠流という男を守りたいのですか?」
「当たり前でしょう。あたしはお兄ちゃん事、大好きなんだから。これ以外に何か理由がいる?」
「いえ。確かにその想いだけで十分ですわね。
全く、わたくしもあなたも思えば、愛する方以外は見えない、盲目的な女性なのでしょうね」
「ご託はいらない。
必要なのは、この想いだけ」
「その通りですわね。
では、行きますわよ。久我定香」
そして、あたしと桜愛理子はそれぞれの呪文を唱えるのだった。
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