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25-4:紫の想いを知りたくて

25-4:紫の想いを知りたくて


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 目が覚めるとそこは固い床の上ではなく、柔らかいベットの上であった。

「あれ、オレ……たしか、牢屋の中にいたんじゃ……」

 頭を何度か振って、眠気を追いやって記憶をたどる。

 サクラの攻撃を何度も浴びて意識が朦朧としていたが、確かに約束をした。

 クロートを彼女に渡す代わり、その見返りとして、鳴恵の願いを聞いてくれるように。

「あんなけが人を牢屋に投げ捨てるほど、あたしは極悪人じゃないわ」

「のわりには、今まさに次元を生み出そうとしている奴の一味だがな。オレも詳しくないが、新しい次元を生み出すと、色々とやばいんだろう」

 そう言って鳴恵は突如目の前に現れたティーカに軽くデコピンをしてやった。

 鳴恵としては手加減したつもりなのだが、相手は何分小さな妖精である。

「シャッ!」

 と奇声を上げ、恨みがましく鳴恵を睨み付けてくる。

 そんなティーカの怒りのこもった視線を笑顔で受け流して、鳴恵は一気にベットから起き上がった。

「シャ!ワワワ!!」

 鳴恵の上空にいたため、危うく鳴恵とぶつかりそうになったティーカが慌てて逃げる。

「とてもけが人とは思えない。見事なまでの目覚めだね。ちょっと羨ましいよ」

 鳴恵が起き上がった先では、久我流誠が椅子に座り、まるで姉妹とじゃれ合うようなティーカを温かい瞳で見つめていた。

「そうでもないぜ。正直、まだ頭はくらくらしてる。サクラの攻撃は容赦なかったからな。やることだけやったら、また眠りたい気分だよ」

 そう言いながら、鳴恵は全身の体をほぐす、体を動かすと全身が痛くて痛くて仕方ないが、その痛みが良い覚醒作用となる。

「それで、あなたの名前って確か、久我流誠で良かったですよね。ティーカを守るナイトさん」

「はい。その通りですよ、ティーカの良き友人である、神野鳴恵さん」

 一人目の魔法使いと六人目の魔法使いは互いの名前を確かめ合う。

 これでは常に険悪な立場の中で出会ってきた二人である。

 こういった平和で日常的な空間で顔を合わすと逆に違和感を感じて仕方ない。

「誰が友人なんて言ったのよ、流誠。この子は、知らなくても良い世界に自分から首を突っ込んできたただの馬鹿よ。

 全く、こんな馬鹿だと知っていたら、あんたには絶対にクロートを託さなかったわよ」

 ふらふらと宙を飛び、腕を組みあぐらをかきながら、ティーカは流誠の肩に乗った。

 流誠の肩にすっぽりとはまったティーカが、あまりにも自然すぎた。

 それがティーカと流誠が共に歩んできた時間の現れなのだろう。

「やっぱり、オレに託してくれたんだな。

 あれだけ危険で、そして、サクラの願いを成就させるのは絶対不可欠なMSデバイサーを、魔力を持たないこのオレに、わざわざ」

 ティーカがしまったとばかりに慌てて両手で口を隠すが、もう遅い。

 本当はさらに根ほり葉ほり聞きたいところだが、一番大事な所を知ることが出来たからもう十分だろう。

 それに、鳴恵は自分勝手な理由でティーカの想いを裏切るのだから、深くまで知る権利もない。

「なら、先に謝っておかないとならないな。ティーカ」

 前置きして、鳴恵はティーカに向かって深々と頭を下げた。

「ごめん、ティーカ。オレはお前のその想いを裏切ることになる。

 オレは何としても、やらなくてはならないことが出来たんだ。そのためには、どうしてもサクラの力を借りないと出来ない。

 そして、サクラの力を借りる代償として、オレはあいつを約束したんだ。

 オレの願いを叶えてくれたら、このクロートを渡すって。

 だから、ごめん。オレはお前の想いを裏切ることになる」


 その想いに迷いはなかった。


 このまるで雷のような真っ直ぐさが、サクラの心に響いたのかもしれない。

 そう思うと、ティーカは何も反論出来なかった。

 確かに、正直な事を言えば、サクラにクロートを渡したくはない。

 でも、その一方で、この鳴恵という女性がもっとサクラの側にいることを願っている。


 そして、二律背反のような想いは、友を思う想いが勝った。


「いいわよ、別に、そんなことしなくて。あたしは別にあんたにクロートを守ってとお願いした訳じゃないわ。

 それはあたしが馬鹿して落としていったものなの。拾ったあなたがどんな風に使おうが、それはあたしの知った事じゃないの。

 だから、好きなように使いなさい。この大馬鹿者が」


 紫色の羽根を見て、綺麗と言ってくれたサクラの笑顔が脳裏を過ぎた。


「でも、お願い。あたしじゃ、きっとサクラを救えない。

 あの子は壊れてしまったけど、あたしはきっと元に戻るって信じてるわ。

 だから、お願い、鳴恵。

 クロートなんかよりも、サクラにまたあの笑顔を取り戻させて」

 紫の妖精の願いを聞き、鳴恵は頭を上げ、”分かった”とばかりに拳を突き出すのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


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