25-2:紫の苦悩
25-2:紫の苦悩
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黄金のブレスレットを持つ女性が桜色の扉の奥へ消えていった。
その後ろ姿には迷いはなく、その先に何が待っていようとも彼女は止まることはないのだろうと感じさせた。
いつも迷ってばかりの自分とは大違いだと思わず、流誠の自嘲の笑みが浮かんでしまう。
「どうしたのよ、流誠。そんなシリアスな顔、あんたには似合わないわよ」
「そうなのかな。前にも同じような事言われた気がするよ」
鳴恵が入っていった桜色の扉が閉まった。
流誠は近くにあった出っ張りに座り、あの扉から鳴恵が出てくるまで待つ。
「それで、何を考えて、あんな顔してたのよ」
「気になる?」
「何度も言わせないの。あんたはあたしの騎士なのよ。ならあたしは流誠の事ならなんだって知りたくてしょうがないのよ」
ティーカは流誠の肩に座りながら、恥ずかしい台詞を言ってしまい顔が火照ってしまう。
まともに流誠の顔を見ることが出来ずに、視線だけは鳴恵が入っていった桜色の扉へ向ける。
「そうだね。でも、情けない話だから、あんまり言いたく無いんだけどね」
「うだうだしてないで早く言いなさい。どんな事だろうが、あたし以外の他の女の事考えなければ許してあげるわよ」
「あ、なら微妙だ」
「微妙って何よ。微妙って!!
あんたまさかに、あたしにあんな告白したっていうのに早速他の女こ事考えていたっていうの。
あんた、あたしの騎士でしょう。何ふざけたこと言っているの。
良いわ、こっち向きなさい。今すぐにその頭にあたしの毒液吐きかけて、他の女にもてないように、禿にしてあげるわ!」
目がマジであった。
きっと今の彼女の胃の中では即刻性の毒液が大量に形成されていることだろう。
早く誤解を解かないと、本当に髪の毛が無くなってしまいそうだ。
「違うよ、ティーカ。確かにボクは鳴恵さんの事を考えていたけど、それは女性としてではなく、1人の人間として考えていただけであって。
その……ボクは、きっと彼女には敵わないだろうなって思っていたんだよ。全く、どう見てもボクの方が年上だっていうのに」
正直に告白してもう一度、自嘲的な笑みを浮かべてしまう。
「敵わないって何よ。鳴恵はあんたと違って、魔力がないのよ。戦ったら、きっとあんたの圧勝よ」
「確かに戦えばね。でも、魔力が無くても彼女は善戦してしまうそうな気がする。
まあ、そう言う所も含めて、ボクは彼女に敵わないと思うんだけどね。
彼女は強いよ。ボクにはあんな迷いのない瞳なんて、出来ない。ボクはいつも迷い続けているからね。情けないね」
「ふ~ん。そんな事なのね」
真相を聞いたティーカはしかし、どうでも良いことのように軽く返事をした。
「迷っても良いわ。それでも、あんたは最後にはあたしを守ってくる。そうでしょう」
「ああ、ボクはティーカを守る騎士だからね」
「あたしはその言葉を言ってくるだけで十分よ。迷っていても良いわ、それでもあたしを守ってくるあんたは最高の騎士よ」
そう言って、ティーカは控えめではあるが、流誠の頬に短く口づけをした。
胸の高鳴りが収まらないし、収まって欲しくない。
なんとも表現できない心地よい感覚がティーカの体を包み込む。
サクラもこの感覚を味わったのだろう。
そして、それ故に壊れてしまったのだろう。
自分を守ってくれると誓ってくれた騎士に恥じないためにもティーカはもう一度決意を新たに刻み込む。
そして、
バン!!
「うっわぁ!!」
桜色の扉が唐突に開き、中から鳴恵がはじき飛ばされてきた。
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